経営哲学
Online ISSN : 2436-2271
Print ISSN : 1884-3476
投稿論文
パーパス駆動のマーケティング実践に対する文化研究からの一考察 ― 先行研究の考察と事例研究 ―
古岡 秀樹
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 21 巻 1 号 p. 42-71

詳細
抄録

市場原理による新自由主義や株主資本主義のもとで、世界経済は成長し、サプライチェーンは世界中に拡大した。しかし、相次ぐ企業不祥事やリーマンショック(金融危機)により、企業に対する不信感、社会格差、人権問題が顕在化し、さらに生物多様性の損失、地球温暖化など、企業や社会の持続可能性に対する懐疑が広がった。その対応策として、多くの企業が、CSR、CSV、ESG、SDGsを取り入れ、社会・環境課題の解決に取り組んできた。こうした流れの中で、多くの企業でパーパスが制定され、注目を集めるようになった。本稿では、パーパス論、経営理念論、組織文化論の先行研究をレビューし、パーパスを、持続可能性問題に直面し経営パラダイムの変革を迫られた企業が、経営理念を補完するために導入する概念として捉え「持続可能性を目指す企業の存在意義」と定義した。また、企業がパーパスの意味を実現するためには、内外の環境認識に基づき、価値観やパラダイム、行動規範と連動させ共有・実践し、組織文化として確立する必要があると捉えた。

さらに、パーパス経営やパーパス駆動のマーケティングが提唱されつつも、その規範的モデルが未構築の現状を踏まえ、近年、堀越(2022)、三浦(2022)らがグローバル展開のために開発した「文化のマーケティング」、「カルチャー・コンピタンス・マーケティング戦略(CCM戦略)」の分析枠組みを、パーパス駆動のマーケティング活動の分析に適用し、事業と環境・社会課題の解決に取り組む企業「パタゴニア」の事例研究をおこなった。研究の成果として、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスを掲げる「パタゴニア」のマーケティング戦略の成功要因を解明し、CCM戦略の分析枠組みの適用が有効であることを確認し、新たな研究の示唆を得た。本稿によって、パーパス駆動のマーケティング活動に関する規範的モデルの確立に向けた研究課題を明らかにすることができた。

著者関連情報
© 経営哲学学会
前の記事 次の記事
feedback
Top