経営哲学
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特集 生命の尊厳と経営哲学―沖縄で考える経営哲学―
生命の価値と価値評価研究
上西 聡子
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2025 年 21 巻 2 号 p. 10-24

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抄録

本論文の目的は、生命の価値づけについて、価値評価研究(valuation studies)の観点から検討することである。本論文の背景には、生命の価値が経済的な価値基準に基づいて評価されているという現実がある。生命に価格をつけるという行為は倫理的な問題を提起する一方で、政策決定やリスク管理のために不可欠な側面も持つ。そこで本論文では、複数の価値基準の混合と、だからこそ生み出される多様な実践を強調し、それらを捉える理論的枠組みの検討を試行する。

続く第二節では、命の価値づけに関する学術書を整理し、主要な論点を抽出する。フリードマン博士は『命に価格をつけられるのか』で、統計的生命価値(VSL)を用いた生命の価格付けについて論じ、その方法や限界を明らかにしている。一方、サスティーン博士は『命の価値:規制国家に人間味を』で、行動経済学的なバイアスやヒューリスティクスが生命の価格付けに与える影響を考察しており、費用便益分析の補正を提案している。最後に、ゼライザー博士は『モラルとマーケット』で、経済社会学の視点から生命保険市場の歴史を分析し、価格付けという経済的価値を成り立たせる非経済的価値を検討する重要性を説いている。これらの研究から生命の価値づけを検討する際の論点として、「生命の価格付け」と「複数の価値基準の混合と公平な評価方法」を抽出する。

第三節では、価値評価研究の理論的礎の一角を担うジョン・デューイの『評価の理論』を取り上げ、価値評価研究の分野で先に抽出した論点をどのように検討できるかを展望する。デューイの価値理論は、複数の価値基準が混合しながら実践を作り出す仕組みを明らかにする上での重要な枠組みを提供する。最後に第四節では、本論文のまとめとして、生命の価値が経済的価値を含む多様な価値基準が混合(blend)するなかで価格付けという形で行われていることを整理し、今後の研究課題に触れる。

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