抄録
中国では約11.3億の人口のおよそ49%が就業しているが,潜在的失業人口が農村では1億以上,都市では1.5千万と推定されている。毎年農閑期を中心として,職を求めて農村から都市へ向かう人口は多く,年間を通じて全国を移動する人々は数千万である,とみられている。このような背景のなかで国内的には人口,住居,教育等さまざまな社会問題が起きており,国際的には諸外国へ出国する人々が増えるなかで,不法入国・就労をはじめとする各種の問題が発生している。中国の労働移動の潜在的圧力は国際的にも重要なテーマである。本稿は1978年以降の経済改革・開放政策の実施過程で増大した労働移動の形態とその要因についてを考察するものである。1990年の国勢調査の集計結果から出された人口移動の統計数値を用い,まず人口移動動態の特徴をみ,次にそれと人口動態の特徴との関係をみ,最後に経済水準との関係でみた。労働移動の動態の特徴は人口動態の特徴との関連性において本質的に固有なものがある。経済水準との関連性では,産業構造,文化生活の要素を含むところの複合的な経済社会水準において本質的に固有なものがある。これらが本稿のなかで基本的に明らかにされる。