MACRO REVIEW
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三峡ダム建設にともなう住民移転問題
秋吉 祐子
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1996 年 9 巻 1 号 p. 77-92

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抄録

本稿は中国の国家威信を掛けた,完成すれば世界最大規模の三峡プロジェクト(三峡ダム建設に関わる事業の全体を指す)の住民移転政策の基調を確認し、その実施状況を概観し、そこから何らかの示唆を得ることを目的としたものである。 まず110万人を超え、20年以上におよぶ移転計画の概要を確認した。 次にダム建設によって水没する地区の住民及びかれらを抱え込む周辺地区の経済水準がどうなるかについての予測を概観した。これは中国科学院南京土壌研究所と北京師範大学環境科学研究所が中心となり9つの研究機関が協力して行ったものであり、外部観察者が触れられる貴重な研究成果である。三峡地区19カ所の1985年の経済状況と2010年の予測値が比較された。予測は最も良い状況下でなされている。両年の比較によると、ダム建設後の経済状況は建設前と変らないといった状況に等しく、悪化する地区もある。 次に、中国政府が提示する移住政策の基本的構想とその実施状況を概観した。それは従来の移住者に対する一括金銭的賠償方式だけではなく、移住者の経済基盤の確立を目指した地域経済の振興による「開発移民」方式である。 今後は、三峡地区が経済的に発展できる- これまでのような格差が生まれない一具体的開発案が必要であろう。これらの開発案は同時に社会的,政治的にも望ましい効果を生むことが求められる。

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