抄録
2017年7月5日に九州北部地方で準停滞性対流バンド(線状降水帯)が発生し、約10時間も持続した。この線状降水帯による記録的な豪雨によって多数の地滑り・洪水が引き起こされ、甚大な被害が発生した。本研究では、この線状降水帯の発生・維持過程を明らかにするために、Weather and Research and Forecasting(WRF)モデルを用いた数値シミュレーションを行った。コントロール実験は観測された線状降水帯と極端降水の特徴をよく再現した。準停滞性下層収束帯が線状降水帯の発生・維持に決定的な役割を果たしていた。流跡線解析と前線形成関数解析は、日本海上の高気圧のブロッキング効果によって生じた下層合流場によって、この収束帯が発生・強化・維持されていたことを示した。また、この収束帯の温度傾度は九州と対馬海峡の海陸間熱的コントラストによっても強化されていた。九州全域の地形を平坦化した実験と雨滴蒸発過程を除去した実験も観測された線状降水帯を再現した。このことは、九州地方の地形および雨滴蒸発による冷気プールは本豪雨事例の線状降水帯の発生・維持に果たす役割は副次的にすぎないことを示唆している。