2020 年 98 巻 4 号 p. 691-706
2016年8月は,北西太平洋で8個の台風が発生し、その中の4個の台風が北日本及び東日本に上陸した。 そのため、大雨や強風により日本で深刻な災害が生じた。また、8個のうち5個の台風が温帯低気圧化(ET)し、これは8月の平均2.1個より多かった。そこで、2016年8月の特異な日本上陸及び高頻度のETをもたらした台風経路の特徴を明らかにするため、k 平均法によるクラスター分析及び低気圧位相空間(CPS)解析を8月及び9月の台風について行った。また、台風周辺の総観場を明らかにするためコンポジット解析及び事例解析も実施した。さらに 2016年8月の特異な特徴について調べるため、2016年8月における解析結果を、2001年から2015年までの8月及び2016年9月の解析結果と比較した。クラスター分析から、2016年8月の台風経路は 2001年から2015年までの8月における経路より北向きの特徴をもつことが示された。CPS 解析結果から、2016年8月の ET は 2001 年から2015年8月のものと比べて、暖気核から寒気核構造へ短い期間で不明瞭な構造変化をとるという特徴をもつことがわかった。2016年8月の台風周辺の総観場は、対流圏上層のジェット気流の蛇行の強化、対流圏中層の強いトラフ、対流圏下層の台風付近での暖かい空気により特徴づけられる。2016年8月の北向きの経路をもつ台風の特異な日本上陸、高頻度のET及びETにおける不明瞭な構造変化は、これらの総観場の特徴により説明される。