2020 年 98 巻 6 号 p. 1245-1260
赤道中東部太平洋の海面水温偏差が負となるラニーニャ現象はしばしば2年以上持続することが知られており、多年ラニーニャ現象と呼ばれる。経験的に、ラニーニャ発生時に日本では暑夏寒冬になりやすいことが知られているが、多年ラニーニャ現象の気候影響はよく理解されていない。本研究では、多年ラニーニャ現象が日本の気温に与える影響を観測データ、大気再解析データ、全球大気モデルによる大規模アンサンブル実験データを用いた合成図解析および、線形大気モデル実験によるメカニズムの調査を行った。
解析の結果、多年ラニーニャ現象が最盛期を迎える年の夏において、日本では1年目と2年目どちらも暑夏傾向を示すが、そのメカニズムは異なっており、暑夏傾向には大きな時間・領域依存性があることが明らかとなった。1年目のラニーニャ現象の夏では晩夏(8月から10月)に南西日本が、2年目には盛夏(6月から8月)に北東日本が高温傾向を示した。これらはそれぞれ、大気下層循環場の変化による熱帯からの暖気移流、高圧偏差が北東日本を覆うことによる断熱圧縮で説明される。両者とも、ラニーニャ現象に伴う赤道中東部太平洋の負の海面水温偏差と降水偏差により直接的に強制されるものであったが、1年目と2年目の差異や季節依存性を理解するには、前年に発生したエルニーニョ現象の影響などを考慮する必要がある。20世紀後半から現在にかけて観測されたラニーニャ現象の多くは多年現象の一部であることから、上記の成果は日本の季節予測可能性の向上に貢献することが期待できる。