気象集誌. 第2輯
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台風発生の解析
柳井 迪雄
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1961 年 39 巻 4 号 p. 187-214

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抄録

1958年水爆実験のためマーシヤル群島に特設された高層観測網の資料を利用して,7月下旬に発生した13号台風(Doris)の初期の詳細な解析を行った。はじめに従来の台風発生に関する諸研究を概観し,解析の意図を明らかにしておいた。
問題の擾乱が大きな上層高気圧性細胞下の偏東風波の状態から渦になるまでの主要な出来事を記述した。偏東風波の状態ですでに広範囲にわたる強風域,組織的な垂直流分布を伴っていたこと,上昇流による厚い湿潤層の形成,cold core型からwarm core型への転化などが明瞭に示された。海面気圧の急激な下降はwarm coreの形成後に始まる。
cold→warm coreの転換を含む36時間にわたり,6時間おきの流線解析に基づいて渦度,水平発散および垂直流の3次元的分布を計算し,更に渦度の時間的変化を追跡した。下層での収斂による渦度の強まり,その上方への輸送,上部対流圏での水平渦への転倒などを渦度方程式を項別に吟味して調べた.
さらに温度と水蒸気量の解析に基づいて,擾乱域内の放熱量,凝結量を吟味した。中心部の上昇域が凝結熱の放出によりわずかに昇温すること,周辺下降域が蒸発によりわずかに冷却することにより,徐々にwarmcOre型の水平温度傾度ができる。この間,湿潤空気の成層状態はほとんど中立に近いようである。
これらの解析結果に基づいて台風の発生過程を整理し,3つのstageをもつモデルにまとめた。すなわちcoldcoreをもつ偏東風波のStage(力学的上昇流を伴う),凝結熱によるwarm core型への転化のstage, warm core成立後の急速な発達のstageである。それぞれにおいて支配的とみられる力学的機構について予備的な考察を加え,今後解析的,理論的に追究すべき問題点を指摘した。

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