気象集誌. 第2輯
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蒸気相から成長する氷単結晶の成長力イネティクスならびに成長形の変化
黒田 登志雄
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1982 年 60 巻 1 号 p. 520-534

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抄録
蒸気相から成長する氷の単結晶,すなわち単結晶雪の成長形と成長機構に関する従来の実験結果をまとめ,晶癖変化ならびに形態安定性の問題に理論的考察を加える。
雪結晶の晶癖は温度の低下にともなって三度変わる。すなわち,-4°Cで六角板から六角柱に,-10°Cで再び六角板に,更に低温(正確には過飽和度に依存する)で再び六角柱になる。融点(0°C)直下で氷結晶表面は疑似液体層でおおわれているが,温度の低下とともにその厚みはうすくなり,ついには消えていく。その結果,ある結晶表面の成長機構は次のように変化する:I)気相(V)-疑似液体(QL)-固相(S)-機構,II)多数の水分子による吸着で荒れた表面の付着成長,III)吸着水分子数がわずかな特異面の二次元核成長。成長機構の変化を起こす温度は面方位に依存する。したがって晶癖変化の主たる原因は{0001}面と{1010}面の成長機構の組み合わせの変化にある。また,低温(<-20°C)における六角柱の出現と,極端な軸比(c/a«1,»1)を持つ晶癖には結晶の周囲の拡散場が影響している。
低過飽和度で多面体を維持しながら成長していた雪結晶は,過飽和度の増大にともなって結晶の角の優先成長により,形態が不安定になり,骸晶を経て樹枝状結晶へと変わる。このような形態不安定は結晶表面に沿っての過飽和度の不均一によって起こる。この問題を議論するには結晶の周囲の三次元的拡散場と過飽和度の不均一を持った表面の成長カイネティクスをセルフコンシステントに解かなければならない。
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© 社団法人 日本気象学会
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