気象集誌. 第2輯
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木星型大気の力学についての基本的考察第I部運動の深さとエネルギー源
矢野 順一
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1987 年 65 巻 3 号 p. 313-327

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抄録

木星型惑星(木星•土星)の大気においては,西向きと東向きに流れが緯度とともに入れかわる帯状流のパターン,長期間にわたって安定に存在する孤立斑(孤立渦:特に,大赤斑の場合,すでに300年以上にわたって観測されている)など様々な運動が見い出される。それらの大気運動についての観測的知識は,ボイジャー探査機によって飛躍的に増大した。しかし,私たちは,木星型大気の力学について,Charney, Eady, Lorenz らが,地球大気に対して確立したのと同等な理論的理解をもつには,まだ,至っていない。2部からなる本研究では,そのための基礎となる基本的考察を行なった。
第I部では,次の最も基本的な問題点について論じた:
(1)運動の深さ:木星型大気は,地球大気とは異なり,明確な地表面をもたず,むしろ,分子性流体の層として内部深くまで続いている。それでは,観測されている大気運動は,地球大気のように浅い(薄い)ものか,内部深くまで及んでいるのか?
(2)エネルギー論:木星型大気は太陽加熱と同オーダーの熱エネルギーを内部にもっている。この2つのエネルギー(太陽エネルギー•内部熱エネルギー)のどちらが主たる大気運動の起動力の役割を果たしているのか?
これらの2点について,以下のような結論を得た:
(1)木星型惑星の内部の順圧的流体層で可能な定常(定在)運動は,軸対称帯状流のみであることを示した。したがって,定常的(定在的)な運動であることが観測的に知られている帯状流と孤立渦の中で,帯状流は内部深くまで及んでいる可能性があるが,孤立渦は,太陽の差分加熱によって傾圧性が存在しうる大気上部に限られた運動であると結論される。
(2)有効位置エネルギーの定式を,対流不安定を含んだ場合に拡張することによって,大気運動の主たるエネルギー源が内部熱エネルギーであることが分かった。

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