気象集誌. 第2輯
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木星型大気の力学についての基本的考察
第II部大気層の力学
矢野 順一
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1987 年 65 巻 3 号 p. 329-340

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抄録

第II部の目的は,スケール•アナリシスによって,木星型大気層(木星型惑星の分子性流体層の上部;流体が理想気体として扱える領域)の力学を研究するための基礎を提供することである。以下のことを示した:
(1)木星型大気層の力学は,ほぼ地衡風バランスの下にある水平2次元的な運動で,積雲対流のような強い鉛直運動はほとんど見られない。水平運動の時間発展は,鉛直移流の項を含まない温位保存の式のみによって決定され,以前から知られていた地球流体の力学レジーム〔準地衡風(QG),惑星規模(PG),中規模(IG)〕とは異なり,渦度方程式を必要としない。特に,Williams,山形,浅田らによって期待されていた中規模(IG)スケールの力学は,成層のパラメーターが小さすぎるために,木星型大気層では実現しえないことが示される。また,この木星型大気層の力学レジーム〔熱地衡風(TG)〕では,Rossby波が存在しえないので,その存在を前提とした Rhines 効果に基づく Williamsの帯状流モデルも否定される。
(2)木星型大気では,内部からの熱流束は,大規模スケールの水平運動にともなうゆっくりした鉛直運動によって十分にまかなうことができる。したがって,鉛直熱輸送のバランスを保つためには積雲対流の存在が不可欠である地球大気とは異なり,木星型大気の雲の大部分は,水平運動によって流されていく安定な層状の雲であると結論される。

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