1978~1984年の約7年間の衛星による雲量,海面水温,高度場データを用いて,夏期,熱帯西部太平洋の対流活動の年々変動と季節内変動の実態,および北半球大気循環場に与える影響を調べた。
西部太平洋熱帯域の海面水温が例年より1°C程度高い年の夏には,例年フィリッピン付近に位置している対流の活発域が北東方向に移動し,20°N付近の亜熱帯域に達する。これらの活発な対流群は多くの台風や熱帯低気圧で成り立っており,この時,北側の中緯度帯と,南側の赤道域では逆に雲量の減少が見られる。このような夏には,中国大陸東部から日本を横切り,北太平洋にかけての中緯度帯で,垂直に立った構造を持った高気圧偏差が卓越する。
5日平均雲量の解析から,この領域の対流活動の変動には,大きな季節内変動成分があることがわかった。対流の季節内変動は,高水温の夏に,15°N~20°Nのフィリッピン海でより活発化し,その結果,夏中を通して見ても,高水温の年の方が低水温の年に比べて大きな雲量が現われる。
5日平均の雲量と500mb高度との相関計算から,フィリッピン付近の熱源域から北米に連なる波列が存在することが明らかになった。日々の高度データの解析から,,これらの波列は,フィリッピン海で対流活動が活発化する時に発生し,振幅の増大が,西太平洋から北米西岸にかけて,約5日間で伝わっていることがわかった。
以上のことから,季節内変動に伴う対流活動の強まりによって,大気中にロスビー波が励起されており,高水温年の夏には,これらのロスビー波の励起が頻繁に起きる結果,東アジアから北西太平洋にかけての中緯度で,高気圧が強まるものと考えられる。
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