気象集誌. 第2輯
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マイクロ波放射計と8.6mm波レーダーによる中層層状雲の氷晶化度の観測
劉 国勝武田 喬男
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1988 年 66 巻 5 号 p. 645-660

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抄録

1985年春,日本付近を通過する低気圧に伴う層状雲について,19.35GHzマイクロ波放射計と8.6mm波レーダーによる同時観測を行った。マイクロ波放射データから鉛直分積分量(L)を,また,レーダーデーターから鉛直積分氷水量(I)を評価し,雲全体としての氷晶化度[I/(L+I)]を求めた。
その結果,層状雲には2つのタイプ(タイプAとタイプB)のものがあることがわかった。タイプAの雲は氷晶化度が低い。雲水量が多いが,レーダーエコーが中層だけにあり,氷粒子の量は少ない。3ケースの平均総凝結水量(L+I)が約55mg/cm2であり,氷晶化度は10%弱である。タイプBの雲はレーダーエコーが強く,中層だけではなく上層でも観測される。氷粒子の量が多いが,雲水量は少ない。3ケースの平均総凝結水量が約40mg/cm2で,氷晶化度は約65%である。つまり,両タイプの雲は総凝結水量がそれほど違わないにもかかわらず,氷晶化度がかなり異なる。
両タイプの雲の構造と降水形成過程については次のように考えられる。タイプAの雲は,中層にある一層の雲であり,氷粒子が中層雲の雲頂上付近で形成される。雲頂での気温が十分低くないため,形成される氷粒子は数少ない。雲水量が多く,中層での上昇気流がかなり強いと考えられるが,氷晶化はあまり進んでいない。一方,タイプBの雲は上層雲と中層雲からなる2層の雲であり,上層雲から中層雲への多量の氷粒子の seeding により中層雲の氷晶化度は非常に高くなっている。本研究は,降水形成過程が異なる2つのタイプの雲の氷晶化度を調べたことによって,中層雲だけでは降水が形成されにくく,上層雲からの seeding が降水の形成に重要な役割をはたしていることを,定量的に示した。

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