気象集誌. 第2輯
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山を取り扱える非静水圧モデルの各種計算スキームの比較
猪川 元興
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1988 年 66 巻 5 号 p. 753-776

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抄録

山を取り扱える非静水圧モデルの3種のスキーム,即ちAE(非弾性音波除去方程式系を用いるもの),E-HI-VI(音波包含方程式系を用い水平方向も鉛直方向もインプリシットに時間積分するもの),E HE VI(音波包含方程式系を用い,タイムスプリッテング時間積分法で水平方向はイクスプリシットに鉛直方向はインプリシットに取り扱うもの)を,その定式化,実際の数値実験において,お互いに比較した。
音波包含方程式系を用いるもので音波成分が十分減衰させられている場合は,AEと同じフラックス形式の移流項を用いても不安定は生じず,数値実験の結果は上記3者でほとんど同じであった。音波包含方程式系を用いるもので音波成分が十分減衰させられていない場合は,不安定が生じた。音波成分を効率的に減衰させる時間積分法,及び高周波成分(音波)と低周波成分(重力波,移流項)を同時に考慮した,その時間積分法の線型安定性解析が示された。
AEやE-HI-VIで用いられた,圧力に関する楕円方程式を解くための逐次近似法(直接解法を何回か適用する方法)は,その精度には問題はなく,計算時間は1回の直接解法の適用により約15%増加した。1回の直接解法の適用に要する計算時間は,E-HE-VIでの1回の短い時間ステップの計算に要する時間とほぼ同じであった。
EHI-VIに関して,音波関連項の一部をインプリシットに取り扱う方法でも,圧力に関する楕円方程式の上部下部境界条件を正確に取り扱うためには,逐次近似が必要であるが,山が低い場合は,そうしなくても,実用上問題は生じなかった。山が高い場合は,逐次近似をしないと不安定が生じた。また,この方法は,山の勾配が大変急な場合,不安定が生じることが示された。

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