気象集誌. 第2輯
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NOAA•OLRデータで見た熱帯大気の
矢野 順一西 憲敬
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1989 年 67 巻 5 号 p. 771-789

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抄録
熱帯大気の時間変動の階層構造の各レベルの特徴的時間スケールはどの程度、客観的に同定することができるか? これを知るための一つの試みとして、フラクタル幾何学を用いた解析を5年間のNOAA•OLRデータについて、行なった。
熱帯域の時間変動のパワー•スペクトルは、きわめて、大雑把に見て、ほぼ振動数の負のベキ乗になっている:スペクトルがこの形に従う程度に応じて、時間変動は自己相似的(特徴的時間スケールを持たない)である、と言える。フラクタル解析によって、この自己相似性の程度を定量化することができた。用いた手法は、時間平均の長さを変えるとともに時間変動の変動の大きさがどのような割合で変わっていくかを見るものである。時間変動の自己相似性の高さは、経度によって、大きく変化する。季節内変動、年変動、ENSO活動のいずれかひとつが特に顕著な領域では、一般に自己相似性が低く(1-20日程度のスケールで自己相似的)、それらの境界領域では高く(1-100日程度のスケールで自己相似的)なっている。特に、季節内変動が活発な領域での自己相性的な時間スケールの上限は、中沢(1988)の事例研究によって同定されたスーパー•クラスターのスケールとほぼ一致している。
また、熱帯域全体で、積雲活動がある時間以上持続する確率は、持続時間とともに指数的に減衰する。この減衰の特徴的時間(3-5日)は、積雲クラスターのスケールを表している、と解釈できそうである。
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© 社団法人 日本気象学会
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