気象集誌. 第2輯
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1982年7月の梅雨前線の大規模•総観規模および中規模的変動
PartII:前線帯の構造と擾乱
秋山 孝子
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1990 年 68 巻 5 号 p. 557-574

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抄録

PartIでは静止衛星赤外データにもとづき、1982年7月の梅雨前線上の雲変動を解析した。PartIIでは、同期間の前線帯の垂直構造を上層jetと下層jetとの関係で議論し、また前線帯の雲変動に関連した擾乱の振舞いを相対渦度場で解析した。結果を以下に要約する。
解析期間(一ヶ月間)の平均場でみると、前線の雲帯はチベット高原南縁から東へ伸びる下層jet(梅雨jet)北側の正渦度帯と一致する。一方チベットの北縁を回る上層jet(westerly-jet)は、大陸の東岸(~120°E)以東で南下し、日本列島近傍では前線雲帯の北側に沿う。~120°E以東の梅雨前線帯の正渦度帯は対流層全層に存在し上層に向かって北へ傾斜しており、梅雨前線帯が傾圧帯であることを示している。大陸上では、梅雨前線の下層jetと上層jetは南北に約1500km離れ、梅雨前線帯の正渦度帯は下層にのみみられる。この大陸と日本列島上での前線帯の構造の違いは、PartIで指摘した両者間の中規模雲システムの様相の相違を説明する。
大規模場の変動に伴って梅雨jetと上層jetとの関係は変動し、120°E~140°Eの梅雨前線の雲量•前線の垂直構造•前線上の擾乱(低気圧)の様相も変動した。雲量と前線帯の構造から、梅雨前線を三つの状況((1)active-deep phase,(2)active-shallow phase,(3)inactive phase)に分類し、それぞれのphaseの前線帯の構造と擾乱の特徴を記述した。
結論として、日本近傍の梅雨前線上の中規模擾乱は、(1)では上層ほど軸の西へ傾く背の高い構造であること、(2)では背の低い構造で北側の(上層jetに伴う)前線上の背の高い擾乱の南側に位置して発達していたことを示した。またいずれのactive phasesでも、梅雨前線上の中規模擾乱は大陸東岸(~120°E)で発達し始める。その発達には上層jet内を中央アジアから移動して来る擾乱が大きく関わっていることを見出した。

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