気象集誌. 第2輯
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やまじ風の数値的研究(3)
非静水圧マルチネステッドモデルによる1991年9月27日の強風のシミュレーション
斉藤 和雄
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1994 年 72 巻 2 号 p. 301-329

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抄録

放射ネスティング側面境界条件を用いた非弾性非静水圧3次元モデルが示され、1991年9月27日のやまじ風のシミュレーションに適用される。気象庁JSMに2重ネスティングした2.5km分解能非静水圧モデルにより、四国山地後面での内部ハイドロリックジャンプの出現と一般風の強まりに伴うジャンプの移動がシミュレートされる。
モデルは既報Part 2(Saito,1993)で用いられた3次元非弾性方程式モデルを側面境界条件を通して変化する一般場の情報を表現出来るように改良したもので、上・下部の境界条件と非弾性の連続の式を満足するような初期場を変分客観解析を用いて作成した。側面境界条件として、内挿した親モデルの予報値を外部参照値に持つOrlanskiタイプの放射条件を用いた。3次元の山を越える流れの非静水圧線形解析解との比較でネスティングの有効性が確認された。
1991年9月27日の台風19号によるやまじ風を例に、気象庁JSMとネスティングした10kmと2.5kmの分解能の非静水圧モデルによるシミュレーションを行った。10km分解能モデルの予報風は基本的にJSMによるものに近く、一般場の変化を良く表現するものの顕著なおろし風はシミュレートされなかった。2.5km分解能モデルでは、四国山地後面のおろし風・新居浜付近の逆風・やまじ風前線(ハイドロリックジャンプ)がシミュレートされ、観測された地上風の変化と概ね良く対応していた。シミュレーションで示された風系と一般風の強さの変化に対応するハイドロリックジャンプの消長は、より単純な設定の下で行われた数値実験や理論的考察(Saito,1992)に基づいて提唱された既報(Part 1=Saito and Ikawa, 1991a; Part2)のやまじ風の概念モデルを概ね支持する。
地面温度・地表面粗度の大小が、やまじ風の強さに影響する事を比較感度実験により確かめた。やまじ風の場合、既報で強調された四国の特徴的な地形(四国山地の風上側・風下側の非対称性、鞍部の存在)に加え、燧難の存在が、海陸の粗度の違いを通じて平野部での強風の発生に寄与している。

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