気象集誌. 第2輯
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72 巻, 2 号
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  • 隈 健一
    1994 年 72 巻 2 号 p. 147-172
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    気象庁現業全球モデルの高水平分解能(T63、T159)水惑星版を時間積分した。どちらの分解能でも、40日周期のマッデン-ジュリアン振動(M-J振動)が出現した。波数1スケールの構造は両者ともほとんど同一であったが、振幅はT159の方が2倍の大きさであった。下層の収束域の東側では、赤道域で湿潤対流が見られ、西側では赤道から離れた熱帯域で湿潤対流が見られる。水蒸気収支解析によると、M-J振動の構造維持には地表付近の摩擦収束の効果が重要である。
    T-159モデルでは、クラウドクラスターの集団(スーパークラウドクラスター)のふるまいが中沢(1988)の解析に類似している。しかし、M-J振動とスーパークラウドクラスターのスケールは分離できなかった。
    M-J振動の熱帯低気圧発生に及ぼす影響も調べた。振動の赤道下層収束域付近およびその西側近傍で多くの熱帯低気圧の発生が見られた。これらの低気圧は東西方向に長い対称ロスビー波の構造の生成に寄与している。
  • 里村 雄彦, Philippe Bougeault
    1994 年 72 巻 2 号 p. 173-195
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    二次元非静水圧の圧縮モデルを用い、PYREXプログラム期間中に観測された2つの風下波の事例について数値シミュレーションを行った。それぞれの事例について、モデルの初期地を上流のある1点での高層観測値から作成した。モデル地形は、実際の地形から波長10km以下の凸凹を平滑化したものを使っている。
    計算の結果、モデルは風下波の波長、振幅、出現位置をうまく再現することがわかった。モデル地形が風下波の波長成分(約10km)をほとんど含んでいないことから、計算結果と観測の一致は、観測された風下波が長い波長の山岳波の非線形相互作用によって励起されたことを強く示唆している。また、感度試験を行った結果、風下波の位相は平均風のわずかな変化に敏感なこと、短波長の地形の存在によって風下波の振幅が大きくなることも示された。
    運動量の鉛直フラックスについても観測との比較を行った結果、観測の下限である高度4km付近においては、モデルと観測ともIOP-3でほぼ-15×104N/m、IOP-9第3日でほぼ+10×104N/mと、両者の対応は良かった。しかし、高度4km以上で運動量フラックスの絶対値の急速な減少が観測されたのに対し、モデルではほぼ一定となっていることが分かった。このような、モデルの中上部対流圏での運動量フラックスの過大評価は、運動量フラックスの大半を担っている長い波長の山岳波の振幅をモデルが過大に表現したためである。その原因として、現実大気における平均風の時間変化や横方向の運動量フラックス発散が考えられることを示した。
  • ダウンバーストの特定と環境条件
    大野 久雄, 鈴木 修, 韮澤 浩, 吉崎 正憲, 長谷川 直之, 田中 芳男, 村松 良夫, 小倉 義光
    1994 年 72 巻 2 号 p. 197-222
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    太平洋高気圧の北辺に位置する岡山地方で1991年6月27日午後発生した雷雨嵐は同地方に激しい雨や雷および強い突風をもたらせた。中でも岡山市の北東部で発生した突風は特に強く、単体では51m/sの風に耐えられるコンクリート製電柱18本を倒壊させた。
    この研究は、電柱の倒壊をもたらせた突風の原因を調べるために始められた。利用可能なすべてのデータが集められ、解析された。データ源は、通常レーダー、気象庁のシステム、密に展開された自治体の大気汚染監視用風向風速計、民間航空機、テレビ局のビデオ画像、被害調査結果等と多岐にわたった。これらを複合利用してメソ解析を行った結果、少なくとも4つのダウンバースト(マイクロバーストとマクロバーストの両方)の発生が明らかになった。電柱を倒壊させたのはそのうちの1つで、雹を伴っていた。当時大気成層は、湿マイクロバーストを発生させるのに適したもので、Atkins and Wakimoto (1991)が報告した米国北アラバマの事例と類似していた。また、ダウンバースト発生の潜在的危険性が太平洋高気圧の北辺にあるとの指摘がなされた。
  • 岩崎 博之
    1994 年 72 巻 2 号 p. 223-233
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    気象衛星NOAAのsplit windowデータ(11μmと12μm)を用いた陸域の可降水量を見積もるアルゴリズムを開発した。この見積り法は観測された2点の11μm帯と12μm帯の輝度温度の差の比が水蒸気による11μm帯と12μm帯の透過率の比に等しくなることを利用している。アルゴリズムは、主に二つの過程からなる。最初に、雲などの影響が少ない信頼度の高い画素を選び出しJedlovec(1990)の方法で可降水量に換算する。次に、衛星データから求めた大気の平均的な気温とモデル大気の平均的な気温を利用して大気温度の補正を行う。
    このアルゴリズムを用いて、約33km×33kmを単位とする領域の可降水量が見積もれ、サブグリッドスケール以下の雲の影響と気温の影響が低く抑えられる。気象ゾンデから求めた4事例の可降水量と衛星から得られた可降水量を比較した結果、両者の差は2.5mm以下と非常に良い対応が得られ、このアルゴリズムの有効性が示された。
  • 第1部・長寿命セルの形成パターン
    三隅 良平, Marjan Divjak, 棚橋 修一, 武田 喬男
    1994 年 72 巻 2 号 p. 235-253
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    長寿命の降水性対流セルの形成過程を調べる目的で、積乱雲群の3次元数値シミュレーションを行った。初期条件として、水平方向に一様な大気場に、小さいサーマルをランダムに与えた。
    形成した対流セルは、次の3つの型に分類された。第1の型(Sタイプ)のセルは短寿命で、鉛直シアーの風下に傾いた上昇流を持つ。第2の型(Fタイプ)はSタイプと同じ気流構造を持つが、他のセルによって強制されることにより長続きする。第3の型(Lタイプ)は長寿命で、鉛直シアーの風上に傾いた上昇流を持つ。
    Lタイプのセルの形成過程において、上昇流がシアーの風上側に傾くためには、上昇流の根が上昇する空気魂よりも速くシアーの風下側に移動せねばならない。その形成段階では、隣接するセルがこのような上昇流の根の速い動きを強制する。実験結果によると、このプロセスに3つのパターンがある。第1のパターンでは、一つの短寿命のセルからのアウトフローによって上昇流の根が移動する。第2のパターンでは、次々に形成する短寿命のセルのアウトフローの先端に沿って移動する。第3のパターンでは、既存のLタイプセルからのアウトフローとともに移動する。これらのプロセスを経ていったん鉛直シアー風上側に傾いた上昇流がつくられると、セルは地上付近に強い冷気プールを形成して自己維持する。
  • 田中 実
    1994 年 72 巻 2 号 p. 255-267
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    5日平均GMS上層雲量(1°×1°メッシュ)データ(1978年4月から1992年12月)、及び5日平均ECMWF上層風(2.5°×2.5°)データ(1980-88)、を利用してインドネシア・オーストラリア・ニューギニアにおける夏のモンスーンの開始と季節変化を調査した。熱帯モンスーンに伴う雲は、11月にジャワ島・北部ニューギニアで増加し、雨期が始まる。その後、12・1月にかけて東部インドネシア・オーストラリアに広がる。
    5日平均850hPa及び200hPa面のECMWF上層風の東西成分の季節変化で、850hPaで西風、200hPaで東風が同一地点で観測された期間の始まりを、風によるモンスーン開始日、終わりを終了日とした日付けと比較すると、北部オーストラリア・ニューギニア・スラウエシ島・南部ボルネオ等の島や陸上で、付近の海上にくらべて日射による加熱のため対流活動が活発で、雲量による開始日は早く、終了日は遅れる傾向がみとめられた。
    インドネシア・オーストラリア・ニューギニアでは広大な海洋のため降水量による雨期の開始(終了)の日付の調査は、ダーウイン付近をのぞいて十分でなかった。しかしGMS上層雲量データによる調査によって、この地域での雨期の開始から終了までの季節変化が明らかになった。
  • 王 亜非, 安成 哲三
    1994 年 72 巻 2 号 p. 269-279
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    本文はPlumb(1985)が開発した定常波のアクティビティ・フラックスを用いて初夏の高緯度から低緯度に至る波列について診断解析を行った。
    オホーツク海付近におけるブロッキング高気圧に伴い、顕著なフラックスの水平成分がオホーツク海から日本付近を経由して亜熱帯(25-27.5°N)へ伝播することが合成図と事例(1982年6月20-29日)により示唆された。
    一方、1982年6月20日-29日の事例解析で相当的に広範囲での上向きのフラックス及び水平フラックスの発散域が東シベリア付近に存在することが発見された。従って、励起するメカニズムがまだ分かっていないが、そこはロスビー波の重要なforcing source地域の一つであることが考えられる。
  • 松山 洋, 沖 大幹, 篠田 雅人, 増田 耕一
    1994 年 72 巻 2 号 p. 281-299
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    コンゴ川の流域水収支の季節変化について長期間平均した水文気象データを用いて調べた。水蒸気収束量はECMWFの全球客観解析データを用いて1985年から1988年までの期間についての平均値を求めた。降水量と河川流量はそれぞれ主に1920年から1960年までと1932年から1959年までの期間のデータを利用し、蒸発散量は降水量と水蒸気収束量の差として月単位で求めた。また大気の水収支各項と1985年から1987年までのNOAA/AVHRRから得られた正規化植生指標(NDVI)の関係についても考察した。
    ほぼコンゴ川流域の北部を覆う常緑樹林地域では、NDVIと蒸発散量は降水量と同じ位相で季節変化する。これに対してコンゴ川流域の南部を占める落葉樹林地域では、NDVIと蒸発散量は降水量に1ヶ月遅れて季節変化する。全流域の平均ではNDVI、蒸発散量と降水量の関係は南部の落葉樹林地域の季節変化の様子に似ている。
    南部の落葉樹林地域の乾季には流域平均の蒸発散量は降水量よりも多くなり、流域貯留量は年間の最小値に向かって減少する。このことおよび蒸発散量と降水量の季節変化の関係から、コンゴ川では流域全体の水収支項の季節変化の特徴は主に南側の落葉樹林地域の性質を反映していると言うことができる。
  • 非静水圧マルチネステッドモデルによる1991年9月27日の強風のシミュレーション
    斉藤 和雄
    1994 年 72 巻 2 号 p. 301-329
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    放射ネスティング側面境界条件を用いた非弾性非静水圧3次元モデルが示され、1991年9月27日のやまじ風のシミュレーションに適用される。気象庁JSMに2重ネスティングした2.5km分解能非静水圧モデルにより、四国山地後面での内部ハイドロリックジャンプの出現と一般風の強まりに伴うジャンプの移動がシミュレートされる。
    モデルは既報Part 2(Saito,1993)で用いられた3次元非弾性方程式モデルを側面境界条件を通して変化する一般場の情報を表現出来るように改良したもので、上・下部の境界条件と非弾性の連続の式を満足するような初期場を変分客観解析を用いて作成した。側面境界条件として、内挿した親モデルの予報値を外部参照値に持つOrlanskiタイプの放射条件を用いた。3次元の山を越える流れの非静水圧線形解析解との比較でネスティングの有効性が確認された。
    1991年9月27日の台風19号によるやまじ風を例に、気象庁JSMとネスティングした10kmと2.5kmの分解能の非静水圧モデルによるシミュレーションを行った。10km分解能モデルの予報風は基本的にJSMによるものに近く、一般場の変化を良く表現するものの顕著なおろし風はシミュレートされなかった。2.5km分解能モデルでは、四国山地後面のおろし風・新居浜付近の逆風・やまじ風前線(ハイドロリックジャンプ)がシミュレートされ、観測された地上風の変化と概ね良く対応していた。シミュレーションで示された風系と一般風の強さの変化に対応するハイドロリックジャンプの消長は、より単純な設定の下で行われた数値実験や理論的考察(Saito,1992)に基づいて提唱された既報(Part 1=Saito and Ikawa, 1991a; Part2)のやまじ風の概念モデルを概ね支持する。
    地面温度・地表面粗度の大小が、やまじ風の強さに影響する事を比較感度実験により確かめた。やまじ風の場合、既報で強調された四国の特徴的な地形(四国山地の風上側・風下側の非対称性、鞍部の存在)に加え、燧難の存在が、海陸の粗度の違いを通じて平野部での強風の発生に寄与している。
  • 大河内 康正
    1994 年 72 巻 2 号 p. 331-336
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    二次元モデルを使い海風の最大上昇流の水平格子幅と水平拡散係数依存性を調べた。
    通常使用される水平格子幅(Δx)において最大水平風は大きな変化を示さないが、最大上昇流(WMAX)はΔxを大きくすると(Δx)-1に比例して弱まる。またΔxを逆に小さくしていくと一定値に近付く。Δxを大きくすることは、平均化して現象を見ている面があると思われるが、実際に平均操作によってWMAXはΔxを増加させたのと類似した減衰を示す。しかしながら、Δxを増大させたときの減衰率は平均操作をした場合より大きな減衰を示す。
    さらにWMAXは水平方向の拡散係数により大きく抑制される。Δxを大きく取ることも水平拡散係数を大きく取ることも共通して、現象のスムージングと関係している。このように数値モデルにおいて一点のWMAXはΔxやスムージングの方法により変化しやすい量であり、それほど意味はないであろう。量的に意味があるとしたら領域平均的WMAXであり、Δxは現象に応じて十分小さく取られる必要があるといえる。
  • 太田 幸雄
    1994 年 72 巻 2 号 p. 337-340
    発行日: 1994/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    イランのペルシャ湾岸の3都市(アフワーズ、ブシェールおよびシラーズ)において、1991年6月3日-7日に、粒径2μm以下の大気エアロゾルの化学成分および大気中の二酸化硫黄ガスの濃度測定を行った。黒色純炭素粒子および有機炭素粒子の濃度はおのおの2.5-6.4および5.1-14.3μgCm-3であった。硫酸イオン、硝酸イオンおよび塩化物イオンの濃度はおのおの2.0-6.4、0.6-1.2および0.3-0.9μgm-3であり、二酸化硫黄ガス濃度は1.1-3.7ppbvであった。これらの都市における大気中の黒色純炭素粒子、有機物粒子、硫酸塩粒子および二酸化硫黄ガス濃度は、日本の都市大気中の濃度とほぼ同じであった。
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