気象集誌. 第2輯
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気象研究所大気海洋結合モデルで再現されたENSO-モンスーン系の対流圏2年周期振動
小笠原 範光鬼頭 昭雄安成 哲三野田 彰
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1999 年 77 巻 6 号 p. 1247-1270

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抄録

ENSO-モンスーン系において卓越する2年周期振動のメカニズムを、気象研究所全球大気・海洋結合モデルを用いて調べた。2年周期振動において、アジアモンスーンは熱帯太平洋の大気海洋結合系と、中緯度循環場との相互作用という2つのプロセスを通して中心的な役割を果たしている可能性が確認された。
モンスーンが強い年の春から夏の南アジアで相対的に活発な対流活動域は、秋から冬にかけてインドネシア付近へ南東進していく。この動きは気候値に見られる熱帯域での対流活動活発域の季節変化と良く一致しており、南アジアからオーストラリアのモンスーンが一連に強い状態となる事を示唆している。夏期に南アジアと熱帯太平洋間の東西循環偏差を通して形成された、熱帯太平洋における海面水温や対流活動偏差は、冬までの間に解消される傾向にある。
冬から春にかけての南アジア付近では、冬の間持続されるオーストラリアモンスーンに伴う対流活動偏差を熱源として、松野-Gillタイプの定常ロスビー波が形成される。モンスーンが強い年には南アジア上空で高気圧性循環、下層で低気圧性循環ができるため、寒気移流がより南まで入りやすい条件となっている。寒気移流は翌春まで持続し、これに伴い地上気温や上空の気温偏差は、春には中央アジアや南アジアで有意に冷たくなっている。このため大陸-海洋間の南北温度コントラストが弱められ、アジアモンスーンの強い年の翌年には逆にモンスーンは弱められると解釈できる。2年周期振動が年サイクルに見かけ上位相固定している理由は、春先の南アジアモンスーンの開始を通した、中緯度-熱帯間の相互作用が本質的な役割を果たしているためであると考えられる。モデル結果は、2年周期振動が陸面-モンスーン-海洋結合系特有の変動であることを示唆しており、冬から翌春にかけてもたらされる、モンスーンと中緯度との相互作用が2年周期振動の維持において果たす役割を強調している。

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