抄録
「『いつ』に関するコンフリクト」とは,ある活動を実施する必要性自体は多くの人に認められ
ると考えられるものの,それを実施するタイミング次第で,人々から大きな反発を招いてしま
うおそれのある状況を指す概念である。南海トラフ地震など大規模災害が発生した際,発災直
後には救急救命活動や緊急物資の輸送が不可欠となることは論を俟たない。また,復旧プロセ
スにおいて経済面での早期復旧を図る必要性自体についても多くの人が同意すると考えられる。
しかし,発災直後などタイミング次第では,経済復旧に関連する活動に注力することに対する
人々から反発を招きかねない。したがって,このような「いつ」に関するコンフリクトのマネジ
メントためには,災害復旧に必要とされる多様な活動をいつ頃(から)実施すべきかに関して人々
が持っている時間感覚(発災からのタイムライン[Post-Disaster Timelines, PDTs])をあらかじ
め把握しておくことが望ましい。本研究では,南海トラフ地震による大きな被害が想定されて
いる愛知県の在住者を対象として実施したPDTs の調査結果を分析した。その結果,PDTs は
県全体として一枚岩ではなく,人によって差異があることがわかった。また,PDTs の差異構
造が「集中型」「擬似集中型」「非集中型」の3 つに類型化できることも明らかとなった。そして,
この違いに留意することで,災害復旧プロセスにおける「いつ」に関するコンフリクトのマネジ
メントについての示唆を得ることができた。