保健医療科学
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特集
居住環境分野から:安心安全な高齢者の「住まい」の整備
阪東 美智子
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 65 巻 1 号 p. 36-46

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抄録

地域包括ケアシステムの概念図では「住まい」は植木鉢に例えられており,植物である「医療」「介護」「予防」を育てる要として位置づけられている.地域包括ケアシステムの推進のためには,「生活の基盤として必要な住まいが整備され,本人の希望と経済力にかなった住まい方が確保されていること」が前提となる.ところが,高齢者の住まいをどのように整備するかの議論は不十分である.現在のところ,サービス付き高齢者向け住宅の整備が唯一の具体的な高齢者住宅施策であるが,高齢者の持家率が 8 割を超える中,自宅でどう暮らすかという議論はほとんどない.高齢者の住まいには,自宅から施設まで多様な形態があり,在宅介護・医療の推進と共にその機能や役割も変化してきている.これまでの住宅は極めて個人的な空間であったが,現在では介護サービスなどの外部サービスの助けを借りながら生活している高齢者が増えており,サービスを提供する他者の立ち入りやサービスの提供時間の拘束を受けることをある程度許容しなければならない.自宅での介護や看取りを推進するためには,従来の住まいとは異なる住まいの機能の検討・検証が必要である.「住まい」の整備が重要となる一方で,高齢者の「住まい方」にも問題がある.筆者らが実施した単身後期高齢世帯の生活実態の観察からは,日常生活空間の狭まり(使用しない居室の存在),万年床,夜間のポータブルトイレの使用,暖房器具の不使用と重ね着による暖の確保,などの課題がみられた.これらに対する支援・ケアの視点の一つは,高齢者の自助を活かした「住む力」のエンパワメントを行うことであり,適切な「住まい方」の啓発・支援が望まれる.

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© 2016 国立保健医療科学院
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