抄録
咀嚼は高齢期において適切な栄養摂取を行ううえで重要な機能である.この機能が損なわれると,野菜・果実類を中心とした食物摂取が低下してビタミン類を中心とした栄養素摂取の低下を招くことが世界各地で行われた観察研究により支持されている.
このように咀嚼の重要性に関する認識が次第に深まり,健康日本21(第二次)の目標値として採用された.また,国民健康・栄養調査でもモニタされるようになり,咀嚼良好者の割合は増加しているが,高齢者人口の増加により咀嚼不良者の人数は減っていない.
咀嚼は半自動運動であり,歩行と神経制御面で類似する点が多いが,歩行に比べるとう蝕や歯周病の進行による歯の喪失として高齢期以前に器質的障害が生じる頻度が高い.このため健全な咀嚼機能の維持を図るためにはライフコース疫学の視点が必要である.
特定健診・特定保健指導の標準的メニューには,今まで歯科関連の内容が組み込まれていなかったが,咀嚼を軸にしたメニューが盛り込まれ成果を挙げた事例もあり,今後の普及が期待される.