保健医療科学
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特集
福島県県民健康調査「妊産婦に関する調査」の概説
―放射線被ばくへの不安を抱える母親に焦点をあてて―
伊藤 慎也 後藤 あや石井 佳世子太田 操安村 誠司藤森 敬也放射線医学県民健康管理センター妊産婦調査室
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2018 年 67 巻 1 号 p. 59-70

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抄録

目的:本研究の目的は(1)福島県県民健康調査「妊産婦に関する調査」をレビューすること,(2)放射線被ばくに伴うスティグマによる不安を抱える母親の割合,およびスティグマによる不安の関連要因を明らかにすること,(3)新しく“Fukushima Future Parents Attitude Measure” (FPAM尺度)を作成して,将来の妊娠出産に対する態度を明らかにすることの 3 点である.

方法:(1)乳児および母親の健康状態を明らかにするために,福島県県民健康調査「妊産婦に関する調査」データを使用した11論文をレビューした.(2)放射線被ばくに伴うスティグマによる不安を分析するために,2011年のベースライン調査および2015年のフォローアップ調査のデータを使用した.フォローアップ研究では,母親の主観的健康観,抑うつ症状,育児の自信,放射線被ばくに伴うスティグマによる不安等を評価した.(3)福島県の女子大学の学生310名を対象に質問紙調査を行った.

結果:(1)福島県県民健康調査「妊産婦に関する調査」データの分析によると,福島原子力発電所事故は妊娠に対して有意な影響を与えていないが,母親の精神的健康に有意な影響を与えていた.(2)974名(41.2%)の母親がスティグマに伴う不安を感じていた.特に,母親の年齢,抑うつ症状の有無,予定通りの妊婦健診の受診,震災後の新たな病気・状態の有無が有意にスティグマに伴う不安と関連していた.(3)探索的および確認的因子分析を行った結果,“caring for a baby”( 3 項目)と“giving birth to a baby” (3項目)の 2 因子が抽出された.これらの 2 因子は生活の質,自己効力感,自尊感情と相関関係を示し,“giving birth to a baby”因子は放射線のリスク認知とも相関関係を示した.

結論:福島県県民健康調査「妊産婦に関する調査」の論文レビューより,小さい子供を持つ母親への精神的健康支援が重要と考えられる.2015年のフォローアップ研究より,母親の40%以上が放射線被ばくに伴うスティグマによる不安を示していることが示された.また,新しく作成したFPAM尺度によると,若い女性の将来の妊娠出産に対する態度は,放射線のリスク認知と関連していることが示唆された.

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© 2018 国立保健医療科学院
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