保健医療科学
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福島第一原子力発電所事故後の放射線リスクコミュニケーション活動の教訓
山口 一郎 志村 勉寺田 宙エリック スベンソン欅田 尚樹
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ジャーナル オープンアクセス

2018 年 67 巻 1 号 p. 93-102

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抄録

導入:東電福島第一原子力発電所事故からの回復期において,精神保健対策や二次的な健康影響への対応が容易ではない課題となっている.バランスの取れた公衆衛生施策を展開するには,リスク・コミュニケーションに関する健全な取り組みが求められる.

方法:放射線リスクコミュニケーションに関するガイドラインや公衆衛生活動に関してPubMedを用いた文献レビューを行い,リスクコミュニケーション課題に関する今日の捉え方を調べた.

結果:それぞれのガイドラインの内容や「放射線」,「コミュニケーション」をMeSHの主要トピックスとして選択し,「福島」で検索し得られた文献からは福島での原発事故でのリスク・コミュニケーションの適用可能性やその重要性について一致した認識があった.日本の各省庁で発行しているリスク・コミュニケーションに関するガイドラインは,国際機関が発行しているガイドラインとも考え方が一致していた.

考察:これらのガイドラインで提示されていたリスク・コミュニケーションの基本的な考え方は,地域住民と地域社会機能を高める地域保健の良好活動事例でもその展開を支える役立つものとなっており,原発事故によりもたらされた二次的な健康被害の低減に役立っている可能性がある.しかしながら,倫理的,法的,社会的議論を検討する活動(ELSI)は,放射線リスクコミュニケーションに関する地域保健活動において新しく認識されてきた概念であり,まだ,この観点で社会学と地域保健活動の連携について書かれた論文が限られていることから,社会科学とより連携を深めることが挑戦的な課題となっていた.ELSIは,地域保健活動での放射線リスクコミュニケーションにおいて避けては通れない概念であり,このような地域での容易ではない課題に対して,関係者で連携した課題解決戦略が強化される必要がある.このように社会科学も活用した関係者で連携した課題解決戦略は,研究上も挑戦的な課題となっていると考えられる.

結論:リスクコミュニケーションのよい取り組みは,地域社会にとって役立つものであり,その展開が地域社会からも支持されていた.地域社会において地域のコミュニケータを含む複数の専門職からなるチームとして組織された戦略的な取り組みが観察された.確立されたリスクコミュニケーションのガイドラインは,特に科学技術でのELSIの観点から特に役立つものである.

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© 2018 国立保健医療科学院
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