2019 年 68 巻 1 号 p. 17-26
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)に向けて,厚生労働省では,NBC(核・生物・化学物質)テロ対策,外国人患者受入環境整備,アスリート・観客の暑さ対策の推進,受動喫煙防止の推進,宿泊施設の不足解消に向けた対策,感染症対策,検疫体制・食中毒対策,麻薬・危険ドラッグ対策,アクセシビリティの確保,障害者の社会参加支援などに取り組んでいる.本稿では,このうち,受動喫煙防止の推進,食の安全確保,宿泊施設の不足解消に向けた対策(民泊サービス)の 3 つのトピックスを取り上げ,現状と課題および対策について概観する.また,これらに関連して国立保健医療科学院が取り組んでいる研究活動について報告する.
東京2020大会に先立ち,2018年に健康増進法が改正された.また,東京都では,2018年に「東京都受動喫煙防止条例」が制定された.これらの法律・条例は受動喫煙の健康影響を防ぐために強い規制を定めている.しかし,日本では法律の規制が難しい加熱式たばこが大きな売上高を占めており,加熱式たばこへの対応が課題となっている.
飲食の提供については,「東京2020大会における飲食提供に係る基本戦略」が策定され,食の安全を脅かすリスクへの対策として,法令順守,自主的衛生管理,行政機関との協働,食品防御,飲食提供対象者との協力といった取り組みが示されている.
宿泊施設については,民泊サービスが,観光振興や地域の活性化,空き家の有効活用などの観点から推進され,ここ数年で急速な広がりを見せている.2018年 6 月には,一定のルールのもとに適切な民泊サービスの普及を図るため,住宅宿泊事業法が施行された.現在,民泊サービスには,旅館業法の許可を得たもの,国家戦略特区法(特区民泊)の認定を得たもの,住宅宿泊事業法の届出を行ったもの,の 3 種類がある.住宅宿泊事業法は,公衆衛生の確保という点では,まだ十分な規制内容を含んでいるとはいえない.
東京2020大会の成功に向けて,さらなる研究を重ね,健康影響評価に関するエビデンスを蓄積し,公衆衛生政策につなげていくことが求められている.