保健医療科学
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特集
我が国における医療情報規格の動向
木村 映善 上野 悟
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 69 巻 1 号 p. 52-62

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抄録

日本は保険の種類にかかわらず単一の公定価格を設定した診療報酬点数表にもとづき,診療報酬を決定する制度を採用し,早くから病名や医薬品に関するマスターを策定してきた.世界に先駆けて導入された診療報酬請求に特化したレセコンの成功は,一方で皮肉にもパーソナルコンピュータ時代にあわせた医療情報システム,電子カルテへの移行を妨げた要因とも見做しうる.ネットワーク技術が普及し,部門システムの接続が増えると相互運用性が課題となった.1980年代に米国でHL7協会が設立された時に,我が国では一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会の前身である日本保健医療情報システム工業会,そして日本HL7協会が設立され,我が国における医療情報システムと標準規格の開発を牽引してきた.2001年の保健医療情報分野の情報化にむけてのグランドデザインを契機として我が国における電子カルテ普及と医療情報標準規格の開発の推進がなされた.2007年に一般社団法人医療情報標準化推進協議会(HELICS)が設立された.HELICSは厚生労働省標準規格として認定すべき標準規格を検討し医療情報標準化指針として採択している.HL 7 2.x,HL7 CDA,IHEのプロファイル,DICOM等国際標準規格を取り入れ,日本の事情にあわせた実装ガイドラインが多数公開されている.また,世界的にも注目されている我が国特有の取り組みとして特定健康診査・特定保健指導があり,HL7 CDAを用いたデータ交換規約が発表されている.独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は医薬品などの健康被害救済,承認審査,安全対策を担当する規制当局として,CDISC標準を中心とした標準医療情報規格を利用したデータ収集に取り組んでいる.現状ではHL 2.xやCDAを中心とした標準規格が発表されたばかりであるため,当面はこれらの規格と我が国独自の統制用語集を用いたシステム運用が続く.FHIRに関する議論は緒に就いたばかりであり,これまでの標準規格で考慮されていないアプリケーションへの適応や,従来の相互運用性確保に関する資産をFHIRに如何に継承するかの議論がなされることが予想される.

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© 2020 国立保健医療科学院
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