保健医療科学
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論文
G20大阪サミットにおける感染症強化サーベイランス
柿本 健作神谷 元入谷 展弘本村 和嗣河原 寿賀子平山 隆則桑原 靖吉田 英樹松井 珠乃砂川 富正鈴木 基小林 和夫
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2020 年 69 巻 2 号 p. 153-164

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抄録

目的:2019年 6 月28,29日に大阪府大阪市で開催されたG20大阪サミット(G20)において,大阪で流行している感染症のG20関係者への伝播,来日したG20関係者が持ち込んだ感染症のG20関係者や大阪住民への伝播を迅速に探知,情報共有し対応へつなげるためG20に特化した感染症強化サーベイランスを大阪府内で実施した.併せてサーベイランスにつき事後評価を実施した.

方法:リスクアセスメントを実施し,探知すべき疾患を選定した.常時稼働と臨時稼働のサーベイランスを組み合わせた強化サーベイランスを構築した.強化サーベイランスデータの集約,解析,評価,日報の作成は臨時に設立されたG20大阪サミット感染症情報解析センター(情報解析センター)にて包括的に実施した.サミット終了後に強化サーベイランス参加者に対しアンケートを実施し,強化サーベイランスの評価を行った.

結果:強化サーベイランスではG20に影響を与える可能性があるいくつかの感染症事例を探知した.探知後,速やかに情報解析センターにて,解析,評価を実施し,関係各所に情報共有した.いずれの事例も拡大することはなく,結果的にG20関係者に影響を与えることはなかった.アンケートは配布した39機関中35機関(90%)から回答が得られた.アンケートでは日報の内容について,8割以上が「有用であった」と回答し,特に“大阪府,大阪市内の感染症事例の発生状況の把握”,“広域で発生した感染症事例への対応”に有効であるとの意見が多かった.

結論:今回,常時稼働と臨時稼働のサーベイランスを組み合わせることで,“探知すべき”と定めた疾患を大阪府内で横断的に探知する体制を構築することができた.また,大阪府,大阪市,大阪健康安全基盤研究所,国立感染症研究所疫学センターのメンバーから構成される情報解析センターが,サーベイランスデータを共に評価し,解析,還元することで,情報解析センターが府内の公衆衛生対応部門の情報共有ハブ機能を果たすことができた.アンケートでは,回答者の 7 割が今後同様のイベントが実施される際には今回の強化サーベイランスを実施した方が良いと回答していることから,意義が実感されていると考えられた.今後,同様のイベントに向け感染症強化サーベイランスを構築する際には,本強化サーベイランスを一つのモデルとしつつ,地域の特性やイベントの特性に合わせて適宜最適化させていくことが必要であると考えられた.

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© 2020 国立保健医療科学院
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