保健医療科学
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連載 東日本大震災から10年 ―国立保健医療科学院からの発信―
東日本大震災の教訓と課題
難病患者と家族の視点から
丸谷 美紀 里中 利恵中村 元子佐久間 勇人
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2021 年 70 巻 5 号 p. 549-556

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抄録

本稿の目的は,東日本大震災以降の自然災害における難病患者と家族の被災経験や災害への備えを,患者・家族の声明として示し,今後の我が国の災害対策の一助とすることである.

まず,全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会会長からは,2011年の東日本大震災以降,2019年の台風まで続く地震・豪雨等の災害においても,難病患者への避難支援や避難所の配慮が欠如し,法や制度と乖離している実態が報告された.日本ALS協会鹿児島県支部事務局長からは,熊本地震で在宅人工呼吸器装着患者への渾身の支援が報告され,患者・家族会の情報伝達システムの確立,及び災害への備えの重要性が言及された.一方,脊髄小脳変性症患者からは災害に備えたくとも障壁があることが述べられた.

東日本大震災以降,法制度は整備されてきたが,その後も想定を上回る災害が続き,難病患者の避難支援,被災後の疾患・健康管理や生活の支援,災害への備えに関し,課題が山積していることが伺える.特に避難所での食事・睡眠・排泄環境等の不備が,患者の健康状態に影響した.2011年に比較すると2018年には,人工呼吸器装着患者の電源確保や原疾患の治療薬の備蓄は充実してきていた.しかし,難病患者が災害時も安心して過すためには,薬や人工呼吸器等の狭義の医療への備えに加え,食事・睡眠・排泄等の基本的ニーズを満たす生活環境の整備へ重点をシフトすることが必要となる.そのためには,難病患者の支援者も無事であることが求められ,換言すれば,難病患者の災害支援とは,全ての人の災害支援につながる.

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