保健医療科学
Online ISSN : 2432-0722
Print ISSN : 1347-6459
ISSN-L : 1347-6459
論文
感染症数理モデルを用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病床逼迫への影響分析
滋賀県を対象として
佐藤 祐一大塚 泰介井上 英耶水野 敏明鈴木 智之
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2021 年 70 巻 5 号 p. 557-568

詳細
抄録

目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第 3 波で病床逼迫が深刻化した滋賀県を対象として,感染症数理モデルを用いて,政策介入や病床の運用等が病床逼迫に与える影響に関する感度分析を行った.

方法:SEIQRモデルを基本として,①感染確認後に隔離される患者を「入院(重症)」「入院(中等症・軽症)」「宿泊療養」の 3 種類に分け,②感染力の時間変化を発症間隔の分布から補正係数として導入した拡張モデルを構築した.本モデルを用いて,実効再生産数,入院期間,宿泊療養率の 3 つのパラメータに関する感度分析を行い,第 3 波における病床占有率の変化を評価した.

結果:本モデルにより,感染者数や入院者数等の実測値を精度よく再現することが可能となった.実効再生産数の推定値の精度は,従来型のSEIQRモデルに比べて大きく向上した.第 3 波における滋賀県の確保病床占有率の最大値は 9 割を超え,非常に逼迫した状況になった.感度分析の結果,早い段階での政策介入,入院期間の減少,宿泊療養率の増加といった対策をとっていれば,病床逼迫を低減できていた可能性が示された.特に実効再生産数の低減は,10日間程度であってもその後の感染者数への影響が大きいことが明らかになった.

結論:本研究により,滋賀県におけるCOVID-19の病床逼迫に対する対策の効果を定量的に見積もることが可能となった.各都道府県で認めた新型コロナウイルスの感染者が療養もしくは入院するのは,原則としてその都道府県の医療施設である.したがって,それぞれの地方自治体がモデルを用いた予測と実効再生産数の正確な推定を組み合わせることにより,政策介入の時期や程度について随時検討することが,医療崩壊を防ぐ上で有効と考えられた.

著者関連情報
© 2021 国立保健医療科学院
前の記事 次の記事
feedback
Top