保健医療科学
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論文
透析施設の災害対策の推進要因
先進事例の分析
清水 由美子熊谷 たまき杉澤 秀博 篠田 俊雄宍戸 寛治馬上 和久
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2021 年 70 巻 5 号 p. 569-578

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抄録

目的:災害対策が相対的に進んでいる透析施設を対象とした質的調査に基づき,災害対策の推進要因を明らかにすることである.

方法:1対象施設の選択:日本透析医会の会員施設全数を対象に行った災害対策に関する量的調査では,患者対策,職員対策,透析設備/備品対策,地域組織とのネットワーク対策(以下,ネットワーク対策),一般的管理対策の区分の中で,患者対策とネットワーク対策の実行度が相対的に遅れていたことが明らかにされた.そのため,量的調査で,患者対策とネットワーク対策それぞれについて実行度が高く,さらに質的調査に協力する意向を示した施設(各15施設,しかし両対策とも実行度が高い施設が 4 施設あったため合計26施設)を対象とした.2調査対象と方法:選択した施設の災害担当責任者を対象に半構造化インタビューを実施した.インタビューの項目は,上記の 2 区分の対策に加えて,実行度が比較的低かった職員対策,および施設全体の災害対策の工夫・進め方で構成した.3分析方法:逐語録に基づき質的記述的分析法で行った.

結果:調査の結果,患者対策,ネットワーク対策それぞれ12施設(両方の実行度が高い施設が 4 施設),計20施設の調査が完了した.災害対策を先進的に行っている施設では,対策を前進させるため以下のようなことを行っていた.患者対策については,現実に役立つ連絡体制の構築,患者のニーズに合わせた事前の情報周知,実践重視の避難訓練,職員対策に関しては,職員目線の対策,日常業務の活用,主体性を引き出すスタッフ教育,ネットワーク対策については,実践的な組織的連携,手段・目的を明確にした連携,顔の見える関係を築く,であった.災害対策の全体的な推進要因には,災害対策へのニーズの自覚,災害対策の意識を持ち続ける,震災対策の機運の高まりがあった.

結論:透析施設の災害対策を推進させるためには,患者・職員の主体性を引き出す,日常業務の中に組み込む,さらに施設全体としてはキーパーソンを育てることの重要性が示唆された.

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© 2021 国立保健医療科学院
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