保健医療科学
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ソーシャル・マーケティングの手法を用いた保険者機能強化
長谷田 真帆
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ジャーナル オープンアクセス

2023 年 72 巻 5 号 p. 422-430

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抄録

社会の課題解決のために提案されたソーシャル・マーケティングの概念およびその手法が公衆衛生分野に応用されるようになって久しく,その有効性に対するエビデンスの蓄積が国内外で進んでいる.

ソーシャル・マーケティングは,「事前調査」「戦略決定」「プログラム開発」「実行」「評価」といった手順に沿い,系統的な計画に基づいて進められる.まず事前調査では,現状分析のために組織内部の弱み(Weakness)のみならずその強み(Strength)および組織外部に存在する機会(Opportunity)と脅威(Threat)をマトリックスにしたSWOT分析や,各要因を掛け合わせたクロスSWOT分析が用いられる.その後,集団をいくつかの小グループに分割したうえで(セグメンテーション),TARPAREモデルなどを用いて優先度の高いグループを選択する(ターゲティング).選択したグループに属する対象者にインタビュー等を行ってその考えや価値観を探り,対象者にとっての利益や障壁(行動変容との「価値交換」が起きうるもの)が何か・推奨する行動との「競合」が何かを探る.対象者の視点を理解したうえでマーケティング・ミックスの4P:Product(製品), Place(場), Price(価格), Promotion(プロモーション)を統合的に用いて介入戦略を決定し,計画に沿って介入を実行する.介入後は実際にどの程度の行動変容が起きたかをアウトカムとした評価を行う.このプロセスは他の行動理論やフレームワークともオーバーラップする部分もあり,ソーシャル・マーケティングでは多様な理論や技術を有機的に統合して用いることも推奨されている.

本稿ではソーシャル・マーケティングとそのプロセスについて概説したのちに,市町村で介護予防施策にソーシャル・マーケティングを取り入れる際の流れについて,想定事例を用いて解説する.これらを通じて,ソーシャル・マーケティングの考え方を保険者機能強化にどのように活用できるかを論じる.

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© 2023 国立保健医療科学院
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