介護保険の保険者である市町村には,データに基づいたPDCAサイクルによる介護保険事業の立案と運用が強く期待されている.市町村が活用できるデータ環境も整えられており,その一つに介護保険事業に関わる基本的なデータを収集した介護保険「保険者シート」がある.一方,第8期介護保険事業計画における長期的なアウトカムへの指標設定状況をみると,多くの市町村がPDCAサイクルによる事業展開やデータ活用が難しい実態がうかがえる.近年,政策評価分野で活用されているロジックモデルは,目指す姿とその実現に必要な事業の関連を可視化することで,指標が明確になり,事業の改善に向けた分析が可能になる,などの利点が知られている.そこで,市町村の実効的なPDCAサイクルによる事業展開を推進するため,介護保険・地域包括ケアシステム分野のロジックモデルを開発し,効果的な活用に向けた方策を検討した.
ロジックモデルの開発は,介護保険,地域包括ケアシステム等の関係法規,公的文書を参考に,学識経験者,自治体担当者らと検討した.最終アウトカムに,高齢者の生活の質に関する1項目,中間アウトカムは,居宅等での暮らしの継続,介護予防・社会参加,介護保険事業の持続可能性,の3項目が設定された.初期アウトカムは,地域のサービス提供体制や支援に関する14項目が設定され,介護保険の事業と事業費が設定された.最終・中間アウトカムは,汎用性が高い一方,初期アウトカム以降は,地域や時代によって設定されることが望ましいと考えられた.
介護保険基本ロジックモデルに,介護保険「保険者シート」から指標を設定し,ロジックモデル上にデータを表示させ地域アセスメントを可能にする評価ツールを開発した.データを国・都道府県・市町村で比較でき,さらに時系列での比較ができる形とした.また研修プログラムの開発と試行を行っている.
介護保険・地域包括ケアシステム分野でおおよそ汎用性のあるロジックモデルを示すことができた.介護保険「保険者シート」も合わせて,PDCAサイクルによる事業展開における基本事項が習得できるものとして活用が想定される.今後さらに,ロジックモデルを活用することの効果検証と,より有効なツールや研修プログラムの開発が期待される.