2025 年 74 巻 1 号 p. 43-52
栄養は個人の健康と福祉の基盤であると同時に,持続可能な開発および経済成長を支える重要な要素である.東京栄養サミット2021において,「あらゆる形態の栄養不良の撲滅」を目指し,世界保健総会の「世界栄養目標2025」,国連「栄養のための行動の10年(2016-2025)」,および持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた政策を推進することが東京栄養宣言として発表された.これに基づき,日本政府は,日本国内の政策として,”誰一人取り残さない栄養政策”を推進することを表明した. 高齢化が進む社会的背景を踏まえ,高齢者の低栄養状態の改善と,口から食べる楽しみを支援するための取り組みが加速している.その一環として,医療,介護及び障害者福祉サービスにおける多職種連携による栄養ケア・マネジメント(NCM)が導入され,推進されている. 本稿では,NCMの理念および,医療保険,介護保険,障害福祉サービス制度における制度設計の変遷を整理した.NCMの制度の導入を支えた背景として,高齢者や患者の栄養状態の把握,栄養ケアの医療経済的効果に関する調査研究の成果についても言及する.また,2000年の栄養士法改正により,管理栄養士の業務が拡大し,傷病者を対象とした栄養管理業務が重視されるようになったことも,NCM導入の大きな要因となっている.2005年10月以降,介護,医療,障害福祉サービス制度の改正に伴い,栄養管理の重要性から,その報酬評価が充実してきた. さらに,高齢化が進む社会において,地域包括ケアシステムの構築にあたって医療・介護連携の強化,およびNCMを担う専門人材の育成は重要な課題である. これらの日本の取り組みは,今後高齢化が進む諸外国における栄養政策の策定や実施にも貢献できるものと考える.