2015 年 22 巻 5 号 p. 433-463
本稿では,日本語述語項構造解析における中心的課題である項の省略を伴う事例の精度改善を目指し,現象の特徴を詳細に分析することを試みた.具体的には,文内に照応先が出現する事例(文内ゼロ照応)に対象を絞り,人手による手がかりアノテーションと統語的・機能的な構造を元にした機械的分類の二種類の方法により事例を類型化し,カテゴリ毎の分布と最先端のシステムによる解析精度を示した.分析から,特に照応先と直接係り関係にある述語 O が対象述語 P と項を共有する事例が全体の 58% 存在し,O と P の間の統語的・意味的関係が重要な手がかりであることを数値的に示したほか,手がかりの種類や組み合わせが広い分布を持つこと,各手がかりが独立に確信度を上げる事例だけでなく,局所的な手がかりの連鎖が全体で初めて意味を成す事例が一定数存在することを明らかにした.