2019 年 26 巻 4 号 p. 711-731
ニューラル機械翻訳は従来手法の句に基づく統計的機械翻訳に比べて,文法的に流暢な翻訳を出力できる.しかし訳抜けや過剰翻訳などの問題が指摘されており,翻訳精度に改善の余地がある. このような問題に対して従来の句に基づく統計的機械翻訳では,対訳辞書を用いてデコーダ制約を実装することにより翻訳精度を改善していたが,ニューラル機械翻訳では対訳辞書を有効活用するアプローチが明らかではない.本稿では対訳辞書を単語報酬モデルによりニューラル機械翻訳に適用する手法を提案する.提案手法は,テスト時のデコーディングの際に対訳辞書に存在する単語に報酬を与えることでそれらの出現確率を高め,翻訳精度の向上を図る.提案手法は辞書をニューラル機械翻訳モデルとは独立して適用するため,辞書の更新や変更を簡単に行える利点がある.また指定された語彙を出力するよう制約を加える方法より少ない計算量で翻訳精度を改善できる.さらにアテンションを利用して対訳辞書を活用する手法と組み合わせると性能を改善できることを実験的に示した.