2017 年 14 巻 p. 11-21
本論文では,そもそも研究不正とは何なのかを問うために,まず研究者集団の質的管理をおこなっている専門誌共同体の起源と役割について考える.次に,専門誌共同体の維持機構である査読システムの問題点について考えてみる.そのうえで,現代の専門誌共同体によって守られている研究の質保証のための公刊システムを20世紀モデルと名付け,20世紀モデルが依拠する認知的権威について再考する.この再考をとおして,20世紀モデルの認知的権威をまもるための慣習を,規制に変換して研究倫理とよんでいる可能性を示唆する.さらに,客観性の起源についてのポーター(1995)の論考をもとに,研究者集団の自律性の起源を探り,外部からの圧力への抵抗としての自律性について考える.現代の研究倫理は,研究者の自律性への外圧に対する抵抗と考えることができる.最後に,欧州におけるRRIを参考にして,20世紀モデルを守るための慣習が不問のまま規制とされてしまっている現状を問い直す必要性について考える.