日本では2014年のSTAP細胞問題から後に研究不正が大きな社会問題となった.その結果,対策として研究者倫理教育の強化が行われている.これに対して,本論考では,研究不正を生み出す社会的背景に着目して考察し,科学を含めた知識生産の現代社会における変容を明らかにすることを目的としている.そのため,研究不正に関連する議論だけではなく,知識生産の機構としてピアレビューやインパクトファクターを分析し,PLACE論やポスト・ノーマル・サイエンス論についても批判的に理論的吟味を行った.その結果,1970~80年代以降での大学の社会的役割の変化,研究者のプレカリアート化,知識生産における競争の制度化などが研究不正を研究者たちに強いる構造的要因となっていることが示唆された.研究不正の問題を解決するには,たんなる倫理教育では不十分で,研究開発システムの現状を根本的に再考する必要がある.