本稿では,「責任ある研究・イノベーション(RRI)」とそのRRIを担う高度知識人材の育成(以降,RRI教育と呼ぶ)を巡る議論が国際的に進みつつある現状を踏まえ,とりわけ学会がRRIとRRI教育においてどのような役割を持つのか,また現状においてどのような議論がなされているのかを検討する.52の学会ホームページ掲載文章を対象に分析を行った結果,ELSIや科学コミュニケーションに関わる項目については各学会においてある程度の言及が行われていた.一方で,「ハンディキャップ/マイノリティへの配慮」や「差別禁止」などRRIにおいて重視される包摂的な視点への言及は非常に少なく,またデュアルユースに関する視点への言及もない現状が見出された.今回の分析結果は,対象の分野・範囲・学会数を絞った予備的なものであり,その解釈についても留保がつくものの,これまでにも指摘されてきた研究者側における研究活動がもつ様々なインパクトへの視座の狭さと同根の問題を示唆するものであると考えられる.