本稿の目的は,ロボットや人工知能技術に関する日本国内での社会的議論の状況に関して,そうした議論に多少なりとも参加している倫理学者という筆者の立場からの見解を示すことにある.そうすることによって,今後の議論のあり方について示唆を行い,より生産的なものとすることに寄与したい.なお,ここでいう「社会的」議論とは,専門家や関係者だけでなく,より広い範囲のステークホルダーが参加した議論を指している.ロボットや人工知能についての議論では,しばしばこの意味での社会的議論が必要と主張されるが,現状では不十分なかたちでしか行われていない.具体的な論点としては,1)情報の過剰さ,2)これらの技術に特有の社会問題の有無,3)既存の議論との連続性,4)価値の問題の重要性という4つを挙げて論じる.