2020 年 18 巻 p. 192-207
抗がん剤開発における副作用リスクの公平な社会的分担を実現するためには,開発に際して服薬者が果たしている役割を明らかにすることが必要である.本稿の目的は,抗がん剤ゲフィチニブ開発において,副作用被害者のみならず臨床試験参加者をも含む服薬者が果たした役割を公式文書や科学論文を基に明らかにすることである.分析の結果,服薬者は次のような役割を担っていることが明らかになった.(1)第Ⅰ相,および第Ⅱ相の臨床試験参加者およびEAP参加者は,生命・健康をかけて,医薬品候補化合物ZD1839 を医薬品へと転化させた.(2)市販後に服薬した数多くの患者は, ゲフィチニブに潜在していた致死的な有害作用を証明し,第Ⅲ相臨床試験参加者は,ゲフィチニブに生存期間の延長効果はないが,無増悪生存期間の延長効果があることを,やはり生命と健康をかけて証明した.もしゲフィチニブの事例が例外でないならば,この事例から引き出される結論は,抗がん剤開発における必須の関与者が,一方的に副作用リスクを受忍するのは不合理であり,有用な抗がん剤は社会全体に恩恵をもたらしうるものであるから,製薬企業はいうまでもなく,広く社会的にリスクを分担する必要があるということである.