2022 年 20 巻 p. 14-23
近年の自然災害における災害情報の出し方のトレンドはレベル化,メッシュ化や高解像度化に伴う避難のリードタイムの減少,防災気象情報の増加・多様化である.だが,災害のリスク・コミュニケーションに関する情報は,科学的に精度よく,精緻に,詳細になればよいということではない.
そもそも気象災害のみならず自然災害の発生自体の正確な予測は難しく,そもそも情報が増加・多様化しても決定打と呼べる情報はなく,「避難」に結びつく情報を判断することは難しい.リスクがリスク通りに伝わることが正しいのではなく,リスクを的確に理解した場合でもそれとは別に念のため避難すること,もしくはリスクを的確に理解しなかった場合でも必要以上にリスクを感じたり,早めに避難したりすることを正解とすべきなのが自然災害の―防災を目的とした―リスク・コミュニケーションなのである.
防災を目的として,人の命を守るための情報を目指すのか,アウトリーチを目的として,地震学・火山学・気象学への理解を深めることやまた専門知の情報提供に徹することを目指すのか,その目的を明確に区別したうえで考えることが重要である.