2022 年 20 巻 p. 89-95
本稿は演劇の専門家と科学技術コミュニケーターが協働して制作した参加型演劇『インヴィジブル・タッチ』を事例とした報告である.筆者は演劇の稽古に参加し,役者らと脚本家が対話を通じて脚本の修正を行っていたことを観察した.本稿では対話が脚本の修正に対して果たした機能について試論を述べる.第一に,脚本の修正過程における対話では論点の〈提示〉〈選択〉〈条件付け〉が行われていた.第二に,脚本修正の基準に「自身の経験」と「公平な情報提供」があると推察した.第三に,修正過程の対話はそれ自体が「自身の経験」であり,同時に「多様な立場の理解」を通じた「公平な情報提供」の手続として機能していた.