日本医科大学雑誌
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狭心症および心筋梗塞患者の予後に及ぼす無症候性心筋虚血の臨床的意義
斉藤 勉
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1991 年 58 巻 1 号 p. 74-85

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抄録

内科的治療により胸痛発作が認められないST下降型狭心症93例と心筋梗塞160例の長期予後とその規定因子について, ホルター心電図, トレッドミル運動負荷試験成績および冠動脈造影所見を用い生命表法とCox型重回帰分析法にて解析し, ホルター心電図にて検出されたsilent myocardial ischemiaの臨床的および予後的意義を検討した結果, 以下の成績を得た.
1) 狭心症および心筋梗塞群における心事故発生率はそれぞれ19%, 18%であり, 有意な予後規定因子は狭心症群にて多枝病変, asynergy, silent myocardialischemia, 運動負荷試験によるST下降の順であり, 心筋梗塞群ではsilent myocardial ischemia, 多枝病変の順で両群ともに, 多枝病変とsilent myocardialischemiaが独立した予後規定因子であった.
2) Silent myocardial ischemiaを有する狭心症および心筋梗塞の頻度はそれぞれ30%, 38%であり, 諸家の報告とほぼ同頻度であった.
3) 心事故発生率は狭心症, 心筋梗塞群ともにsilentmyocardial ischemia非出現群に比し出現群で高く, 心筋梗塞群では有意であった. また, その内訳は狭心症群では冠血行再建術が最も多く, 心筋梗塞群では再梗塞が多かった.
4) Silent myocardial ischemia出現群の予後規定因子は狭心症群では多枝障害, 運動時間の短縮, asynergyの存在, 運動負荷試験による狭心症出現であるのに対し, 心筋梗塞群では左室駆出分画の低下, ホルター心電図における最大ST下降度であった.
以上より, silent myocardial ischemiaは冠動脈疾患における心事故発生の重要な規定因子であり, silentmyocardial ischemia出現例の心事故発生率は非出現例に比し高かった. 心事故の内訳は狭心症群では冠血行再建術施行例が多く重症な合併症は少なかったのに対し, 心筋梗塞群では再梗塞が多く予後は不良であった. したがって, 心筋梗塞群では症状の有無にかかわらずSMI例に対し早期から積極的に冠血行再建術を施行すべきであると考える. 一方, SMI出現例における予後規定因子は心筋梗塞の既往の有無により異なることが明らかにされ, 治療対策上十分留意すべきであると結論される.

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