本稿は生物の認識と行動の環境への適応に関する理論の解説を行う.始めに環境の階層モデルに対する近似推論法を紹介し,サプライズ最小化の原理から生物の認識及び行動の説明を試みるFristonらの自由エネルギー原理を機械学習の立場から概観する.次に階層モデルによるアプローチを情報理論の観点から考察し,情報量最大化原理に基づく古典的な知覚の理論や非線形信号処理との関係を解説する.最後に認識のモデルに対する熱力学的な取り扱いを紹介し,学習過程のエントロピー・自由エネルギーのダイナミクスを考察して熱力学法則との形式的関係を明らかにする.このようにして生物がその非線形な演算装置を適応させて外界の表現を獲得し,身体を使い認識に沿うように外界を改変していく過程が複数の視点から明らかになる.