日本神経回路学会誌
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解説
ベイズ統計と熱力学から見る生物の学習と認識のダイナミクス
島崎 秀昭
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2019 年 26 巻 3 号 p. 72-98

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抄録

本稿は生物の学習と認識をベイズ統計学と熱力学の立場から解説する.脳は学習により獲得した外界のモデルをもとに推論を行う器官であると考えるのが脳のベイズ的な見方である.本稿の前半はこの見方が自発活動と刺激誘起活動をめぐる実験事実からいかにして形成されてきたかを解説し,ベイズ推論に基づく外界の認識が実現されていることを示唆する神経活動として図地分離・注意等の実験例を紹介する.後者の実験では順方向結合による初期刺激応答に対してリカレント回路による入力が時間遅れで統合されていることが示唆され,初期刺激応答後の神経活動に気づき・注意・報酬価値が表されると報告している.後半では神経細胞集団の刺激応答のダイナミクスを生成モデルを用いて再現した上で,学習と認識を神経活動のエントロピーに関する法則を用いて記述する熱力学的手法について解説する.特に時間遅れを伴う動的な情報統合によってベイズ推論を実現する神経ダイナミクスが情報論的なエンジンを構成することを紹介する(ニューラルエンジン).これにより内発的な刺激変調を定量化し,その効率を計算できることを解説する.

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© 2019 日本神経回路学会
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