日本神経回路学会誌
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解説
Glucoseロジスティクスの低下を伴う新規精神疾患モデルマウスの開発とその関連知見
平井 志伸
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2021 年 28 巻 2 号 p. 93-101

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抄録

統合失調症(SZ)や双極性障害(BD)をはじめとする精神疾患は思春期後期から若い成人期に好発し,遺伝的脆弱性を背景にして,様々な環境要因がその発症を後押しすることが知られている.産業革命以前食卓に上ることはなかった砂糖(ブドウ糖と果糖が結合した二糖類)は,世界中で爆発的に消費量を増やし,現在では作製が容易な果糖ブドウ糖液糖(異性化糖のこと)の開発成功も相まって,所謂,単純糖の摂取量は止まるところを知らない.しかし,脳機能への詳細な影響の検討は未だ研究途上である.単純糖の摂取量は思春期で最も多く,それはちょうどSZやBDの発症時期と合致する.我々は,思春期における単純糖の摂取過多が精神疾患の発症に関与するのか,動物モデルを作成することで因果関係の証明を試みた.そして,単純糖の摂取過多は脳の生理学的,行動学的変化をもたらし,その表現型はGlyoxalase-1という種々の精神疾患で活性や発現低下が報告されている酵素のヘテロ欠損を伴うと,決定的なSZやBD様の所見を示す結果となった(Prepulse inhibitionスコアの低下,作業記憶の低下,脳波におけるGamma帯域の活動異常,PV陽性抑制性インターニューロン(PVニューロン)の機能低下等).我々は更に,作成した精神疾患モデルマウスにおいて非糖尿病性の毛細血管障害,血中から脳内へのGlucose取り込み低下を検出した.また,マウスで観察された毛細血管障害と同様の所見を,SZ,BDの患者死後脳でも見出した.以上の結果は,単純糖摂取過多による何らかの代謝異常により精神疾患が発症しうることを示唆し,血管障害が新たな表現型もしくは治療対象となりうることを示している.

本稿では,我々の研究結果に関連するPVニューロンの機能と神経振動(Neural oscillation),血中から神経細胞までの物質輸送についての最近の知見も交えて紹介したい.

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