日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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28 巻, 2 号
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挨拶
巻頭言
解説
  • 毛内 拡
    2021 年 28 巻 2 号 p. 71-80
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/07/05
    ジャーナル フリー

    脳は,神経ネットワークの集合体と解釈されており,神経生理学の主な研究対象は,神経ネットワークにおけるシナプスを介した相互作用である.しかし,血管やグリア細胞など,脳のニューロン意外の構成要素が,脳内の物の流れ(ロジスティクス)に不可欠な役割を果たしている.さらに,脳の細胞外スペースは,細胞外環境の恒常性と代謝老廃物のクリアランスに重要な役割を果たす脳リンパ流の主要な経路であり,神経修飾物質の拡散性伝達や神経細胞が生成する電場の媒質としての役割を担っている.脳の高次機能を理解するためには,神経ネットワークとそれ以外の構成要素との間の「非シナプス性相互作用」を含む,脳内の包括的なコミュニケーション方式を理解する必要がある.本稿では,細胞外スペースとそれを満たす細胞間質液が提供する脳の「アナログ伝達機構」に焦点を当て,生きた脳組織の神経生理学・生物物理学のための神経科学の新たな展開を紹介する.

  • 髙堂 裕平
    2021 年 28 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/07/05
    ジャーナル フリー

    近年,神経科学領域における神経回路の評価において,非侵襲にマウスからヒトまで共通して用いることのできる磁気共鳴画像装置(MRI)の利用が広まってきている.技術の進歩により装置が高磁場化し,より一層その有用性が増している.磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)は,高磁場化の恩恵を受けた撮像法の一つであり,脳の局所における脳内代謝物の測定を可能にする手法である.本手法を用いることで,脳の一定領域における神経伝達物質,エネルギー代謝に関わる代謝物,浸透圧調整物質等,種々の脳内代謝物の測定が可能となる.本稿では,神経回路の評価に有用な分析手法であるMRSの概要について紹介し,MRSで測定される脳内代謝物から伺える神経-グリアカップリングの脳機能における重要性についても述べてみたい.

  • 夏堀 晃世
    2021 年 28 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/07/05
    ジャーナル フリー

    エネルギーの恒常性維持(ホメオスタシス)は,細胞の生命活動を維持する上で極めて重要である.脳においては,特定の神経活動に伴う局所血流増加がNeurometabolic couplingとしてエネルギー恒常性維持の一端を担うと考えられ,それにより生理的条件下で,神経の細胞内エネルギーは常に一定に保たれると予想されてきた.しかしこれまで,生体脳においてエネルギー恒常性維持が達成されていることを検証した報告は無かった.そこで筆者らは,細胞共通のエネルギー通貨として利用されるアデノシン三リン酸(ATP)の神経細胞内濃度の生体計測により,脳のエネルギー恒常性維持の生体検証を行った.その結果,大脳皮質の興奮性神経の細胞内ATP濃度は,動物の睡眠―覚醒に伴い皮質全体でシンクロして変動し,動物の覚醒時に増加することを見出した.この結果は動物の覚醒時,神経活動増加に伴うエネルギー需要増加をさらに上回るエネルギー合成活動が,皮質全域で同時に迅速かつ持続的に行われることを示唆している.このことから,動物の覚醒時に皮質全域の神経細胞内ATP濃度を一気に増加させる,全脳レベルのエネルギー代謝調節機構の存在を初めて予想できた.動物の睡眠覚醒に伴い,脳の広域で一貫した神経細胞内ATP変動を引き起こすエネルギー代謝調節機構の実体として,筆者らは,ノルアドレナリン神経をはじめとする覚醒中枢神経の関与を予想している.これらの汎性投射神経が広範な投射先で伝達物質を拡散放出し,グリア細胞の一種であるアストロサイトへ作用して局所血流調節と神経への乳酸供給という2種類の代謝調節活動を制御することで,広範な脳領域で一貫した神経細胞内ATP濃度最適化に寄与している可能性があると考え,現在研究を進めている.

  • 平井 志伸
    2021 年 28 巻 2 号 p. 93-101
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/07/05
    ジャーナル フリー

    統合失調症(SZ)や双極性障害(BD)をはじめとする精神疾患は思春期後期から若い成人期に好発し,遺伝的脆弱性を背景にして,様々な環境要因がその発症を後押しすることが知られている.産業革命以前食卓に上ることはなかった砂糖(ブドウ糖と果糖が結合した二糖類)は,世界中で爆発的に消費量を増やし,現在では作製が容易な果糖ブドウ糖液糖(異性化糖のこと)の開発成功も相まって,所謂,単純糖の摂取量は止まるところを知らない.しかし,脳機能への詳細な影響の検討は未だ研究途上である.単純糖の摂取量は思春期で最も多く,それはちょうどSZやBDの発症時期と合致する.我々は,思春期における単純糖の摂取過多が精神疾患の発症に関与するのか,動物モデルを作成することで因果関係の証明を試みた.そして,単純糖の摂取過多は脳の生理学的,行動学的変化をもたらし,その表現型はGlyoxalase-1という種々の精神疾患で活性や発現低下が報告されている酵素のヘテロ欠損を伴うと,決定的なSZやBD様の所見を示す結果となった(Prepulse inhibitionスコアの低下,作業記憶の低下,脳波におけるGamma帯域の活動異常,PV陽性抑制性インターニューロン(PVニューロン)の機能低下等).我々は更に,作成した精神疾患モデルマウスにおいて非糖尿病性の毛細血管障害,血中から脳内へのGlucose取り込み低下を検出した.また,マウスで観察された毛細血管障害と同様の所見を,SZ,BDの患者死後脳でも見出した.以上の結果は,単純糖摂取過多による何らかの代謝異常により精神疾患が発症しうることを示唆し,血管障害が新たな表現型もしくは治療対象となりうることを示している.

    本稿では,我々の研究結果に関連するPVニューロンの機能と神経振動(Neural oscillation),血中から神経細胞までの物質輸送についての最近の知見も交えて紹介したい.

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会報
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