2022 年 29 巻 4 号 p. 174-185
本稿では,近年国内外で活発に研究開発されているイジングマシンについて述べる.イジングマシンとは,イジング問題と呼ばれる組合せ最適化問題に特化した専用計算機である.世界初の商用量子コンピュータである量子アニーラがイジングマシンの一種であり,それをGoogleとNASAが創設した量子人工知能研究所が購入したことをきっかけに,イジングマシンが注目を集めるようになった.現在では,超伝導や光といった特殊なハードウェアだけでなく,従来の半導体デジタル計算機を利用して実用性を高めたものも多く,ドメイン指向コンピューティングの新たな潮流となっている.後者は主にアルゴリズムに特徴があり,中には量子計算にインスパイアされて発見されたものもある.そもそも量子アニーラに端を発した研究という経緯もあり,メディアはこれらを「疑似量子コンピュータ」と呼ぶことがある.イジングマシンと似たものとして,ホップフィールドニューラルネットワークをご存じの読者は多いだろう.実際,ホップフィールドニューラルネットワークの派生物であるボルツマンマシンなどは,現在のイジングマシンとの関係が深い.そこで,本稿の前半では,特殊ハードウェアから疑似量子コンピュータまで,現在開発中の多種多様なイジングマシンをホップフィールドニューラルネットワークやその派生物との類似に触れながら紹介する.後半は,筆者が提案し,現在も研究開発中である疑似量子コンピュータ,シミュレーテッド分岐マシンについて解説する.