脳内の学習は,多様なシナプスおよびニューロンの可塑性メカニズムによって担われている.この複雑な可塑性機構についての洞察を得て,実験的検証可能な仮説を導くためには,可塑性がどのように機能するかについての規範的な理論を構築することが重要である.ベイズ脳仮説は,動物行動および脳の情報処理の理解へと広く応用されている規範的理論であるが,脳の学習機構がベイズ脳仮説で説明できるかは依然よく理解されていない.本稿では,シナプス可塑性を重み空間でのベイズ推定と捉え,サンプリングおよび変分ベイズ近似に基づいたベイズシナプス可塑性の二つの実装について解説する.最初に,マルチシナプス結合の可塑性および再配線と,サンプリングを用いたベイズフィルタリングとの間の双対関係を議論し,次に,スパースコーディングモデルにおける学習と推論の変分ベイズ近似と,哺乳類の嗅球のダイナミクスおよび学習機構の対応関係を説明する.これらの研究は,規範的なベイジアンアプローチが,脳内の複雑な学習メカニズムを理解するための強力なフレームワークであることを示唆している.