日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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30 巻, 2 号
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挨拶
巻頭言
解説
  • 釡口 力, 小坂田 文隆
    2023 年 30 巻 2 号 p. 56-65
    発行日: 2023/06/05
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    脳には膨大な数のニューロンが存在し,それらがシナプスを介して複雑に絡み合うことで神経回路システムを構築している.この神経回路で行われる情報処理が様々な脳機能の基盤となっていることから,神経回路の構造・機能をそれを構成する多様な神経細胞種と関連づけて理解することが脳の仕組みの理解へ繋がると考えられる.我々は神経回路を解析する手法として,経シナプス感染能を有する狂犬病ウイルスベクターを用いた神経回路標識法を開発してきた.近年では,分子生物学,光学,行動心理学,情報学などと組み合わせることにより,分子・細胞・回路・領域・行動を階層的に結びつけるマルチスケールな解析が可能になってきた.本稿では,G欠損狂犬病ウイルスベクターを用いた経シナプストレーシング法とその応用的な解析に焦点を当て,脳神経回路研究の展望について紹介する.

  • 小林 亮太
    2023 年 30 巻 2 号 p. 66-72
    発行日: 2023/06/05
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    計測技術の進展により行動中の動物の脳から,より多くの神経細胞の活動を,より長い時間にわたって計測できるようになってきた.神経細胞は他の細胞からシナプス入力を受けてスパイクを生成するので,神経活動データから神経細胞間の因果関係を抽出することにより,直接計測できない神経細胞間のつながり(シナプス結合)を推定できることが期待される.このような考えは50年以上前から提案されていたが,周囲の神経細胞の活動や変動する外部信号の影響も加わって現象が複雑となるため,信頼性の高い推定結果は得られていなかった.本解説では,複数の神経細胞から同時計測されたスパイク信号からシナプス結合を高精度に推定するデータ解析技術 GLMCC(Generalized Linear Model for Cross-Correlation)を解説する.シミュレーションデータや実験データに適用した結果,GLMCCは従来の手法に比べて高い精度でシナプス結合を推定できることを確認した.データ解析技術 GLMCCにより,さまざまな脳領域における情報の流れや情報処理様式が明らかになることが期待される.

  • 神谷 俊輔, 大泉 匡史
    2023 年 30 巻 2 号 p. 73-83
    発行日: 2023/06/05
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    脳はその状態を柔軟に変化させることで様々な機能を果たす.この意味で脳は自らの状態を望みの状態に制御する制御システムとみなすことができる.脳を制御システムとして数理的に解析する上で問題となるのが,脳の高次元性であり,適切に次元を削減したモデルを考えることが肝要となる.高次元ダイナミクスの次元削減法として近年急速に注目を集めている方法の一つに,動的モード分解(Dynamic Mode Decomposition: DMD)と呼ばれる手法がある.この方法は,高次元時系列データから,その時空間的振る舞いのモードを取り出す方法であり,制御システムへの応用も可能である.本稿ではDMDと関連する話題を簡単に紹介した後,DMDを制御システムに応用したDMD with control(DMDc)について触れ,最後に神経科学におけるDMDの活用についてレビューする.

  • 平谷 直輝
    2023 年 30 巻 2 号 p. 84-93
    発行日: 2023/06/05
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    脳内の学習は,多様なシナプスおよびニューロンの可塑性メカニズムによって担われている.この複雑な可塑性機構についての洞察を得て,実験的検証可能な仮説を導くためには,可塑性がどのように機能するかについての規範的な理論を構築することが重要である.ベイズ脳仮説は,動物行動および脳の情報処理の理解へと広く応用されている規範的理論であるが,脳の学習機構がベイズ脳仮説で説明できるかは依然よく理解されていない.本稿では,シナプス可塑性を重み空間でのベイズ推定と捉え,サンプリングおよび変分ベイズ近似に基づいたベイズシナプス可塑性の二つの実装について解説する.最初に,マルチシナプス結合の可塑性および再配線と,サンプリングを用いたベイズフィルタリングとの間の双対関係を議論し,次に,スパースコーディングモデルにおける学習と推論の変分ベイズ近似と,哺乳類の嗅球のダイナミクスおよび学習機構の対応関係を説明する.これらの研究は,規範的なベイジアンアプローチが,脳内の複雑な学習メカニズムを理解するための強力なフレームワークであることを示唆している.

  • 太田 桂輔, 村山 正宜
    2023 年 30 巻 2 号 p. 94-106
    発行日: 2023/06/05
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    脳は異なる役割を担う部位の集合体であり,各脳領域の神経細胞がシナプスを介して神経回路を形成し,その神経回路に機能が生まれると考えられている.しかしながら,多領域を越えて単一細胞の解像度で神経回路の活動を計測する観測系は確立しておらず,広域に渡る神経回路の機能的構造は不明であった.我々は広視野・高解像度・高速撮像・高感度・無収差を同時に満たす2光子励起顕微鏡「FASHIO-2PM(fast-scanning high optical invariant two-photon microscopy)」を開発した.マウス大脳皮質2層に存在する1万6,000個以上の神経細胞の活動を,9mm2(従来の36倍)の単一視野面から7.5Hzの撮像速度で高感度に測定することに成功した.単一神経細胞の活動に基づく機能的ネットワークを解析したところ,脳はスケールフリーネットワークではなくスモールワールドネットワークの特性を有することが明らかになった.同時に長距離の機能的結合も含め100以上の細胞と協調的に活動する非常にレアなハブ細胞(存在確率は1%未満)の存在も明らかにした.

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